不便なのに売れる?不便益をビジネスにするという発想

“不便益”という概念がある。不便益システム研究所によると、

不・便益ではありません。不便の益 (benefit of inconvienience) です。
不便で良かったこと、ありませんか?
引用:不便益システム研究所

とある。今は便利すぎてけしからんということでない。人工物が悪いとか、ノスタルジーに浸るような話でもなく、考え方の1つとしてなんでもかんでも便利だからいいというわけではないよ? ということを教えてくれる。

不便益のビジネス

ビジネスという視点から見ると、どうなるか? ということで思いつく事例をいくつか。

素数物差し

素数物差し
画像:不便益システム研究所

まずは、不便益システム研究所がつくった素数物差し。2013年の3月に販売され、販売から約2年後の2015年の4月の段階で2万本以上売れたそうだ。577円という価格もまた素数。個人的には素数には何の魅力も感じないが、素数好きな人にはたまらないだろうし、面白くて買う人もいそうだ。不便だけど益があるから買うということ。

刻印のないキーボード

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画像:PFU

パソコンのキーボードにはキートップに何も書かれていない無刻印のキーボードがある。個人的には何でそんなものが欲しいのか分からないが、好きな人が一定数いるから売られているわけだ。ブラインドタッチの練習用ということではなく、かっこいいうから買うという人がほとんどだろうと思える。こだわりがあるのだろう。

ダイアログ・イン・ザ・ダーク

ダイアログ・イン・ザ・ダーク
画像:DIALOGUE IN THE DARK

本当に全く何も見えない暗闇に入ってさまざまな体験をするのがダイアログ・イン・ザ・ダーク。「暗闇といってもちょっとくらいは見えるんでは?」なんて思う人もいるかもしれないが、全く見えない。行ってみたら分かるが目を開けても閉じても、見えるのは黒黒黒という状態で本当に何も見えない。目が見えないというのはこういうことか、と分からせてくれる。

めちゃくちゃ不便だが、その体験をあえてすることで、普段いかに視覚に頼っているかが分かるし、目の見えない人の気持ちがほんの少し分かるだろう。他の感覚が研ぎ澄まされる可能性もある。

これも不便だけれど、何かしらの益があるといえるんじゃないかと思える。そもそもお金払って体験するわけだし。

マニュアル車

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イタリアやスペインなどヨーロッパは少なくともこの記事を書いている時点ではマニュアル車がほとんどだが、日本やアメリカではオートマがほとんど。

シフトチェンジが面倒な人にとってみたらオートマのほうが便利でマニュアルは不便だろう。

しかし、マニュアルが好きな人にとってみたら、自分で自由に操作できるから運転しやすいと思えるし、操作している感がいいという人もいる。

登り坂でクラッチ切った状態で少し動くのが面白いなんてこともある(今は、後退を制御してくれる装置もある)。

マニュアルだとエンジンブレーキの利きが全然違うし、アクセルとブレーキの踏み間違いによる誤発進はほぼ不可能なので、安全といえば安全。

また、オートマ車より燃費がいい(今はCVTのほうが良いケースが多いかと思う)。車種にもよるが、マニュアル車の車両価格はオートマ車のそれよりも安い。

などなど益がある。個人的には車に乗っていた頃はマニュアルだったし、乗るならマニュアルがいいので不便だけれど益がある。

EVになるとガソリンエンジンとは構造が違うので、マニュアル車は消える運命にある。

しかし、2022年の2月にトヨタがアメリカでEV車におけるマニュアル操作ができるようにする技術を特許出願した(Toyota Is Trying A New Way Of Blending The Old With The New – Manual Transmission On Electric Cars)。クラッチペダルつきでつなぐ感覚も得られるようになるようだ。

ガソリンエンジンのマニュアル車とどこまで同じ感覚になるかは分からないが、マニュアル車という不便益はまだまだ残るかも。

コーヒー豆

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コーヒーは粉にしてあるのがいい人もいれば、豆のままの人がいい人もいる。さらには生豆がいいという人もいる。一方で、缶コーヒーやコーヒー店で淹れてもらうのがいいという人も。

生豆でも焙煎のやり方はさまざま。ガスでやる人もいれば、電熱線でやる人もいる。また、焙煎された豆を挽かずに豆のまま買う人もさまざま。コーヒーミルはボタン押したら機械がやってくれるのがいい人もいれば、手動でガリガリ挽くのがいい人もいる。

便利さを考えたら粉で買うのがいいのだろうし、そう思う人も多いとは思える。豆を挽いて買っていく人もよく見かけるので。

個人的には、生豆のままではさすがに焙煎は面倒だし、あまり売っていないので焙煎された豆を豆ののまま買う。また、あのガリガリやっている感覚がいいので手で回すコーヒーミルを使っている。不便だけれど味があっていいし、感触もいいので益があるということだ。

その他

ビジネスとは直接関係ないが、パスワードなんかも似たようなものかもしれない。

覚えるのが面倒だ、覚えきれないといってパスワード管理ツールを使う人もいる。顔や指紋などの生体認証もある。

しかし、パスワードには忘れるリスクというのもあるので、ツールに頼っていると、ツールが使えなくなった瞬間、アウトとなる。

もちろん、ツールを使わなかったとしても忘れたらアウト。大量のパスワードを使い回さずに覚えるのも大変。

忘れるリスクとツールが使えなくなるリスクを回避したいなら、ネットバンクなど重要なサイトには定期的にログインしてパスワードを記憶し続けられるようにして(不便益)、他はツールなどでもいいかも。

ただ、自分の記憶がいつまでも確かである前提が崩れると終わりそうではある。

まとめ

一見すると便利になることがビジネスになるのが当たり前と思ってしまうが、以外とそうでないということに気付かされる。価値の話を何度か書いたが、不便益というのは感情価値が伴うケースが多いように思える。

なぜ、お客のいなそうな街のそば屋が潰れないのか?(価値の話)

お客さんがいないのに続いている店。そんな店を見たことはないだろうか?私の実家のある田舎ではそんな店がいくつかある。 その1つがラーメン屋。そのラーメン屋は、私が高校生の頃からあるところ。だが、そのときからお客さんが入っているのをほとんど見たことがないのだ。

こんなところにも価値は潜んでいるということを知ると、違う視点で発想が生まれるだろうし、あなたのビジネスにも幅が出るかも。

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