約60億円の損失を回避しプラスにさえした窮地を救ったすごい交渉術
1912年、アメリカにて選挙戦の最中の話。現職大統領のウィリアム・タフト、ウッドロウ・ウィルソン、そして前大統領のセオドア・ルーズベルトの3人による逝去線だった。うち、セオドア・ルーズベルト陣営に大変なことが起こった。責任者が1つ重要な失態を見つけたのだ。
この失態は大金が関わる非常にやっかいな問題だった。
目次
6000万ドルの損失か……!?
写真はセオドア・ルーズベルトのものだが、イメージであり実際のビラとは異なる
現在の金額にして6000万ドル(1ドル100円として60億円)もの損失が生まれるかもしれないという大問題を発見してしまったのである。
一体、何が起こったのか?300万枚ものルーズベルトの写真付きビラができあがったところで、写真家に写真の使用許可をとっていないことに気づいたのである。これの何が問題かというと、当時の法律では写真家は写真1枚につき、最大1ドルの使用料を請求できるということになっていたからだ。
それがビラが出来上った段階で発覚した。なので、300万ドルの費用がかかる可能性が急に出てきたということになる(300万ドルというのは、現在の貨幣価値に換算すると6000万ドル相当になるそうだ)。
緊急会議で生まれた妙案
急遽、ルーズベルト陣営は多額のお金をどうするか、写真家との交渉をいかに進めるかということを考えなくてはならず、窮地に立たされてしまった。
いきなり6000万ドルものお金をポンと出してくれるようなことはないだろうし、そのまま写真を使ったらまずまちがいなくバレることになる。写真家が請求してこないように祈ってもしょうがない。
どうしようかと議論を重ねた結果、妙案が……!この妙案によって、ルーズベルト陣営は窮地を乗り切ることになる。
こんな方法で6000万ドルの損失をゼロどころかプラスに変えてしまった
どうやって窮地を切り抜けたのだろうか?選挙管理責任者は次の内容を写真家に送ったのだ。
「写真付きの遊説用ビラを300万部配布する計画がある。写真家にとってまたとない宣伝の機会だと思われる。貴殿の写真を使用した場合、いくらなら払う用意があるのか、至急連絡されたし」
すると、その写真家は以下の回答を返してきた。
「ありがたい機会ですが、250ドルまでしか払えません」
何とも見事なやり方である。
※出典はこちらの書籍「交渉の達人」より。
ちなみに選挙の結果はどうなったか?アメリカの歴代大統領を調べれば分かるが、ルーズベルトは敗退し、ウッドロウ・ウィルソンが大統領になった。残念ながら、秀逸な交渉も選挙結果には影響しなかったようだ。
相手がかわいそう?
すごい発想だし、選挙の関係者側にとっては良かっただろうが、写真家の立場で考えたらどうなるだろうか?写真家の正当な利益を取り上げているとも考えられる。
しかしながら、もし仮に選挙の関係者側が300万ドルもかかる可能性があるなら、ビラを使うのはやめようとなってしまったら?写真家は何も受け取ることなく、選挙の関係者側もビラの制作費が無駄になり、破棄する手間が増えるだけ。お互いにとって何のプラスにもならず、かえって損失となってしまう。
だからといって本人の写真とは言え、無断で勝手に作品を使っておきながら250ドル出させるのはどうかと思うが、写真家はとても良い実績作りができたことにはなる。
重要なのはお互いがどうプラスになるのか。
交渉の達人によると、交渉においては「立場」や「駆け引き」にこだわるべきではなく、双方にとってどんな価値が生まれるかを検討すべき、とある。
交渉というと、つい自分に有利に働かせることを考えてしまうことがあるが、それは我田引水であって交渉とは別物。相手がいなければ成立しないのが交渉であり、自分だけが良ければいいでは長続きしないのは自明のこと。また、その逆もまた同じで自分がいつも引けば良いという自己犠牲も長くは続かない。
まとめ
窮地に陥っても何とかなるものという例。いつだって可能性はいくらだってある。もちろんダメなときもあるし、いつも妙案が生まれることに期待するのはよくないと思うが、可能性に目を向けない限り進展はないのは確かかなと。
また、交渉もビジネスも相手のことをどれだけ考えられるか?が鍵を握るのは間違いないように思える。