田舎の葬儀屋はこうして利益を出す。意外な利益の源泉を当事者から聞いた
彼岸の時期に墓参りに行こうと思い実家に帰った。
家で昼ご飯を食べ終わり、くつろいでいたところ、たまたま親戚のおじさんがやってきた(よくある架空の人物ではなく本当に親戚。叔父)。
そのおじさんは葬儀屋で働いている。地元の高校を卒業してずっと地域の金融機関で働いていたのだが、いつの間にか葬儀屋に転職していた(詳しい事情は知らない)。
私が子供の頃に比較的高級な車に乗っていたので、バブルの頃は羽振りがよかったんだな……と今になって思う。ただ、時代の流れにそのまま乗っているような気がしていて、どこにでもいそうな普通のおじさんという印象だった。
が、つい先日、そのおじさんが実はなかなかのキレ者だということが分かった。葬儀屋ってそこで利益とるんだ! 葬儀屋がそこまでやっているとは……ということが分かったからだ。武勇伝的に盛っているかもしれないが、自分で考えてやってそうだった。
その話を聞いて、葬式も結婚式も冠婚葬祭でつい一括りにしてしまいがちで似たような印象があったが、結婚式と葬式はまた違うな、と思えた。
といっても、人口数万人の田舎の一例なので、すべての葬儀屋がそうだなんてことはないし、田舎と都心など状況によって違ってくるとは思うが、ビジネスで利益を出すには? という観点からは良い事例だなと思える。
では、何をやっているのか?
お茶の間の話なので、不正確なところや盛られていることはあるかもしれないが、次の2つがポイントになるかと思う。
- 何が利益につながるのか?
- 商談を勝ち取る3つの重要事項
以下、詳しく見ていく。
目次
おじさんは葬儀屋でこんなことをやって利益を出していた
まずは何が利益につながるのか? 収益に貢献する商品はなんなのか? ということから。
結論からいうと、利益が出やすいのは主に次の3つだそうだ。
- 家の解体
- その後の手続き関連
- リフォーム
本業の葬式でも儲けは出るとは思うのだけれど、大きな利益はそこではないような話だった。
家の解体
「葬儀屋で家の解体?」と思ったが、なるほど確かにそうだなと思えた。1人暮らしの高齢者が亡くなったときに残るのは家と土地。
誰もそこに住まないか、あるいは新しく家を建てようとか他の用途に使おうとなったときに家を解体する必要が出てくる。
そのまま持っていてもいいのだけれど、固定資産税はかかるし、今は解体の価格がどんどん価格が上がっているそうなので早くしたほうがいいらしい(話に聞く限りでは)。
普段から解体の業者からつながりのある人なんそうはいないし、解体業者も常に個人に営業かけてはいないわけで、葬儀屋が解体業者とつながっていれば良い橋渡し役になるというわけだ。
葬儀屋は業者につなげばいいだけだ。もっとも、間に入って抜いている以上、ほったらかしというわけではないけれども、基本は業者に投げるだけ。右から左と書くと語弊があるとは思うが、葬儀の他にプラスして利益が上乗せされる。
家の解体費用っていくらくらい?
ちなみに家の解体にどのくらい費用がかかるか分かるだろうか? そのとき話を聞いていたら、ちょうど具体的な話が出てきた。おじさんの義理の親が住んでいた家を近々解体するそうだ(どうやら、それでその家に行ってきて、その帰りにウチに寄ったらしい)。
という話のなかで、160坪(うろ覚えなので坪数の数字は違うかも……)の敷地にある家の解体で180万円かかるそうだ。
おじさん曰く「あの家なら、100万円くらいでできるのにもったいない。口出ししないけど」と言っていた。親戚間でもいろいろあるようだ……。
この差を見たらどれだけ利益が出るかは想像できるだろう。これが1人当たりの話。もちろん、葬式をする人が全員が同じ状況ではないけれども、売上ではなく利益で数十万円変わるんだから小さな会社にとっては大きい。
葬儀屋が受注するポイントは故人のこれを見ること
これは後述する内容にも関わってくるが、葬儀以外のところで利益を出そうと思ったら、亡くなった人の家族構成を知ることが大切だそうだ。子供は女なのか男なのか、近くに住んでいるか、遠いのかなど。
要はその後の家の処理をどうするか? ということを推測するということ。それが、次の3つ目の利益の源泉に関わってくる。
例えば、個人の子供が女性だけなら、全員嫁に行ってしまって遠くにいるかもしれない。そうなれば十中八九売ることになるだろう。もしかしたら、売るときに解体業者の斡旋をするかもしれないし、不動産屋からキックバックがあるかもしれない。
など、いろいろと次の展開がある。
その後の手続き関連
人が1人亡くなるといろいろと手続きがあるもの。
で、そこに相続が関わってくると利益的にはいいらしい。詳しくは聞けなかったので推測になるが、普通は相続なんて慣れている人はいないわけで、弁護士が登場するかもしれない。場合によっては揉めるかもしれないし。
また、不動産が絡んでくると不動産業者、司法書士、あるいは弁護士の出番もあるかもしれない。
具体的な話は、また今度会ったときにでも機会があれば聞こうかなと思うのだけれど、何かしら利益の種があるのは想像できる。
リフォーム
そして、もう1つの利益のポイントがリフォーム。
「葬儀屋でリフォーム?」となるのが普通な気がするのだがどうだろうか? 私は解体ならまだ分かるのだけれど、リフォームとなると「?」となった。
でも、実はリフォームも取れるらしい。葬儀屋がリフォームを請ける別会社を作っているんだからこれは間違いないだろう。先ほどの解体もこの法人で請けるような気はするが、リフォームも取れるとのこと。
最近はトイレが熱いらしい(受注できる)。これは単純にあの地域が汲み取り式から下水になった時期が関係してくるようで、単なるタイムボーナスみたいなものだが、いろいろと取れるようだ。
解体よりも単価は落ちるのが普通かとは思うが、やはり業者と個人の仲介で利益が取れるという話。
収益商品を売るための3つの重要事項
利益につながることが分かったとしても、それにつなげられなければ絵に描いた餅になってしまう。ということで、次はどうやったら受注できるのか? についてだ。
実際に葬儀以外のところで利益をとろうと思ったら、大切になったくるのがセールス。営業トークにかなり深く関係してくるので、そのポイントについて。
ちなみに、営業トークというとオンラインだと関係ないと思う人もなかにはいるのだけれど、まったくもってそんなことはない。
オフラインのほうが目の前のお客さんに合わせてアレンジしやすいし、対面で双方向にできることでコミュニケーションをとって成約につなげやすくはなる。ただし、一度に1人しか対応はできない。
一方、オンラインだと1対多が可能だし、あらかじめ用意しておけば、システム化して自動的にやってくれることもあるという利点がある。ただ、個別にアレンジするのは今のところは相当キツイと思うし、双方向でもないのが普通なので、成約率はどうしても下がる。
少し脱線してしまったが、次の3つが重要となるとのこと。
- 知ってもらうこと
- 勝負を分ける客先での15分
- 信用を得ること
知ってもらうこと
おじさんは、定期的にチラシを出すのいいという話をしていた。理由は聞かなかったので、私のは推測にはなるが、すべての始まりは葬儀屋に電話が来たときだ。
さすがに「誰か死にましたか?」と営業するわけにはいかないし、都合よくタイミングが合うこともないわけだから。
なので、何よりも大切なのは最初に連絡をもらえるようにすること。そのためにも、葬儀をするとなって、さあどこに連絡するかという段階で名前が上がるようにしないと厳しい。
もちろん、「地域名+葬儀屋」などと検索するかもしれないが、そのときに記憶にある葬儀屋の名前があったらそこに目が向くのが自然だ。
なので、チラシで名前を売っておくことが大切になる。中小零細企業は普通はチラシを出したら具体的な反応がある広告(ダイレクトレスポンス広告)を出すのが基本だが、葬儀屋に関してはイメージ広告みたいなのも有効になりそうだ。
勝負を分ける客先での15分
こんなに気合を入れたらひかれそうだが……
15分というのは葬儀屋としてお客さんと話をするときに、次につなげるために使える短い時間という意味。
葬儀屋のなかでも利益をもらたす人はここでしっかりと次につなげるようにするが、葬儀の話をして終了という人もいるようだ。
葬儀だけでも利益は出るのだろうけど、先ほども触れたとおり、1回の葬儀につき数十万円単位で利益が変わってくるわけだから、中小企業としては大きいだろう。仮に月に10回葬儀をしたとしたら数百万円が利益で変わってくるわけだから。
ちなみに厚生労働省の平成29年(2017) 人口動態統計の年間推計という資料を見ると、2017年は1年で134.4万人が亡くなっている。
となると、死亡者数が人口に単純に比例すると仮定すると、人口5万人くらいの田舎だとしても月間で46人は亡くなる計算だ。1つの市町村だけということはなくて、周辺の地域もあるだろうし、日本の人口構造を見たら田舎であってもしばらくは需要は大きいだろう。
そして、人が1人亡くなると、公的な手続きはもちろん、葬儀の手続きなどなどやることは山ほどあるもの。
そうした説明をしつつ、その後の利益につながることにつながる可能性を探ってうまく話すことが重要になる。
このときにカギになってくるのが信用だ。
信用を得ること
信用が得られなければ何を言っても聞いてもらえないが、信用が得られれば話は聞いてもらえる。不誠実に利用しようとすると化けの皮が剥がれるし、田舎の狭いところで信用を失うのは相当な痛手。
なので、あくまでその人にとってプラスになって自分たちもプラスになるからという姿勢で望むのが求められる(と、さすがに思う)。
では、信用を得るにはどうしたらいいのか? そのためには2つの具体的な方法があるそうだ。1つは不安をなくすこと。もう1つは詳しいということ。
不安をなくすこと
葬儀屋が呼ばれて家で話を聞いているときに、必ずといっていいほど遺族が聞いてくるのが「全部でいくらかかるんですか?」という質問だそうだ。
そこでどんなものにいくらかかるのか? それをパッと説明できるように準備を常にしておくことが大切になる。
また、見積もりは後で高くなると話が違うとかいろいろ言われそうなので、少し高めに見積もっておくのもポイント。
人は知らないと不安になりがちだが、この範囲ならまず総額で収まるといった全体が分かると不安は減るもの。ということで、まずはどのくらいかかるのか? という不安を解消させる。
葬儀屋への連絡は基本は突然やってきて、しかもその後にあまり時間はかけられない。なので、前もってパターンを用意しておかないと間に合わないとのこと。できない人はここもできない……と嘆いていた。
詳しいということ
加えてその後の必要な手続きに関しても詳しく説明する。全体像を説明して、何をする必要があって、それぞれどうやってやるかを把握してもらう。
そうすれば、さすがにプロということで信用が積み重なる。一度、信用されるといろいろと話しもしてくれるし、相手のことが分かれば分かるほど、次につなげるための切り口も増える。
で、家の解体からその後の手続で面倒なもの(相続など)や、さらには遺族の家のリフォームにまでつなげる(解体だと家の話になるので、なにかしら話の糸口がつかめる)。
まとめ
ということで、いかに葬儀屋が利益を上げているか? という話。
こちらでも書いているとおり、売上を上げるには「客単価」「客数」「リピート数」の3要素を向上させることに帰結する。
人通りが少ないのにどうやってそのカフェは儲けを得ているのか?
葬儀屋の場合、葬式のリピートはあり得ない。客数は人が死ぬかどうかであっても、統計的に見たら毎日のように人は亡くなるわけだから、努力次第で増えることはある。
一方、単価を上げることに関しては他の業界よりもやりやすい状況があるようで、それをきっちりやれれば、利益増につなげやすい。
そのために何をしているかというと、マッチングをしてマージンを得ているわけだ。業者に対して集客をやってあげているといってもいいかもしれない。
ちなみにマッチングに関してはこんなビジネスも面白い。
面白いマッチングビジネスの例とビジネスアイデアの生み出し方
また、見えないところにある利益という意味ではこちらもどうぞ。
なぜ、客のいない小さな八百屋の経営がうまくいくのか?〜見えない利益〜
所感
それにしても、そのおじさんは、バブル期に高いクルマに乗っていた印象がなぜか強くて、当時のバブルに思いっきり乗っかってて、そのまま滑り落ちていったという勝手な印象があったのだけれど(失礼極まりないが……)、なかなかの強者だなと思える。
いち社員ではあるものの、単に言われたことだけやっている人ではなくて、利益を出すには? という観点で動いていて、とても良い事例だと思う。
何気ない雑談でここまでノウハウを垂れ流しにするとはすごい笑 ちなみに、せっかくそうしたノウハウがあって実績も出しているけれども、会社に対しては忠誠心はほぼない。「どうせ利益出したって給料は変わらない」と言って、中途半端なところでやめているらしい。
会社がなくなってしまったら元も子もないので、最低限かそれプラスαくらいはやっているような感じだった。もったいないなと思えるが、親族とはいえ、一方向からの話だけでは実際のところは見えないので、なんともいえないけれども。