成功すれば幸福になるということが科学的に間違っている理由
成功すれば幸福になる−。そう思う人が大半なのではないかと思う。しかし、それは逆だということを心理学の面から明らかにしてくれている人がいる。ハーバード大学で心理学を研究をしていたショーン・エイカーという人物だ。科学的に正しいとされる成功の方法があるという。
一体、どんな方法なのか?それを解説してくれているのが、今回ご紹介する動画だ。すでに1000万回を超える再生回数となっており、とても注目されている。
ただ、限られた時間のなかでポイントだけを話してくれている印象。もう少し背景や具体的なやり方などがあると分かりやすいと思うので、補足してみた。
目次
科学的革命の先駆けとなった意外な体験
彼は、7歳の頃に非常に興味深い体験をした。そのときは知るよしもなかったのだが、後に人間の脳の見方を変えることになる科学的革命の先駆けとなる体験だった。それは、こんなエピソード。
ある日、二段ベッドの上段にいたショーン少年の妹が、突如、ベッドから落下した。ショーン少年が床を見ると、妹は四つん這いのまま。どうやら着地はうまくいったようで、頭を打つようなことはなかったらしい。が、妹は今にも泣きそうな状態だった。
少年は、それを見て非常にまずいと思った。怪我はないようだが、このままでは「妹を泣かした!」と、また親に怒られるてしまうと思ったからだ。つい1週間前に、妹を泣かせてしまったばかりだったので、なおのこと怖れた。
そこで、ショーン少年は妹が今にも泣きそうで、時間が差し迫る中、あることを思いついた。そして、実に秀逸な言葉を妹に語りかけ、難を逃れることに成功したのである。このエピソードが20年後に分かったことに大きく関係していることは、このときのショーン少年は知るよしもなかっただろう。
ハーバードの研究を踏まえて分かった成功するための効果的な方法
続きはこちらの 「幸福と成功の意外な関係」というTEDの動画をどうぞ。
なぜ、成功すれば幸福になると考えずに、その逆を考えるのか?
動画を見てどう思っただろうか?私が考える重要なポイントはこうだ。
成功すれば幸福になる、に潜む落とし穴
成功すれば幸福になれると考えるのは、普通のように思える。成功とは何かにはよると思うが、何かしら掲げていた目標が達成された成功と言えるだろうから、それを成功としよう。
その場合、目標を達成するとどうなるだろうか?達成するまでの困難の度合いによるとは思うが、嬉しいと思うのが普通だろう。が、それは長続きはしない。「成功」する度に脳は成功の定義を再設定するからだ。ゴールに到達してもまた次のゴールが現れ、結果、ずっと幸福を追い続けることになってしまう。
だから、成功すれば幸福になるということではない、と動画では解説している。
あなたを成功に近づけるポジティブ心理学
成功することで幸福になるのではない、ということは分かったが、じゃあどうするのか?ということが重要だろう。そこで、登場するのがポジティブ心理学だ。ポジティブ心理学は、一言で表現してしまえば、物事をポジティブに考えるということになるわけだが、それがなぜ、成功に関係するのか?それは、こんな効果があるから。
ポジティブに考える効果
ポジティブな状態の脳はネガティブな状態の脳より生産性が高くなることが分かっている。例えば、セールスの成績が37%上がり、医者は19%早く正確に診断するようになるからだ。つまりは、行動の結果が良くなるわけだから、それだけ成功に近づいていくことになる。
ポジティブに考えることの重要性
また、世の中を見てみると、ネガティブな情報にあふれているといえる。例えば、ニュースで伝えられる内容は大半がネガティブなもので、おそらく大半の人がニュースを見聞きする。そんなネガティブな情報に囲まれていると、その人もネガティブになってしまう恐れがある。典型的な例が医学部症候群というもの。医学部の学生が、医学書を見ていると何らかの症状が自分にあてはまっていると考えてしまい、本当は病気ではないのに、自分は病気なんじゃ・・・と不安になっしまうという症状だ。
だから、ネガティブな情報に囲まれる状況にいる我々は、知らず知らずのうちにネガティブな情報にさらされてしまっており、その影響を受けているこということ。ポジティブに考える機会が増えれば、逆になるわけだ。
私たちの現実はどう見るかによって変化する
医学部症候群というのは、本人の思い込みが引き起こすこと。要は、私たちは自分のレンズを通して現実を見ることで、自分の現実を作り出しているということになる。アドラー心理学の自己決定性という考えと同じだろう。
自分の使うレンズによって自分の現実が作られるのなら、ポジティブに考えることによって、ポジティブな現実が見えるということになる。
成功すれば幸福になるの意味
ということで、ポジティブに考えることが成功に近づく、ということになる。つまり、どう捉えるかということが現実を作り出し、その現実を見てポジティブになることができ、結果として、脳が良い状態になり、行動の結果もよくなる。であれば、成功するよね?というわけだ。
なので、成功すれば幸福になる、を逆にするというのはより正確には幸福=ポジティブに考えるということになるだろう。成功するからポジティブになるのではなく、ポジティブになるから成功する、ということだと思う。
どうやったらポジティブに考えられるようになるのか?
とはいえ、ポジティブに考えようと思っても、なかなかそうできないという人もいるだろう。また、一時的にはできても、すぐにネガティブになってしまうなんてこともあると思う。では、どうしたら脳をポジティブにすることができるのだろうか?
脳をポジティブに変える5つの方法
その答えは、脳をトレーニングするこということ。筋肉と一緒で脳もトレーニングでき、トレーニング次第で考え方やものの見方も変わってくる。では、どんなトレーニングがいいのかというと、次の5つを紹介してくれている。
- 感謝できることを3つ書く
- 日記を書く
- 運動する
- 瞑想する
- 意識して親切な行動をとる
感謝できることを3つ書く
感謝できることを毎日3つ書くことで、ネガティブなことではなく、まずポジティブな面を見るように変わっていくから。そのためには、21日間続けるといいとしている。
21日間というのは、おそらく習慣化するためだろうと思う。というのも、こちらの記事にあるようにマックスウェル・モルツという医学博士が21日間続けることによって習慣化されるということを自著で書いているからだろう。
私達の持っているイメージが変わるまで通常、最低でも約21日かかります。
整形手術を施した後、その患者が自分の新しい顔に慣れるのに平均すると約21日かかります。
腕や脚が切断された場合は、手足の幻影が21日間ほど残ります。
また新居が、我が家のように思えるまでにはそこに暮らしてから約3週間かかります。
これらの例や他の場合でも、古いイメージが薄れていき新しいイメージが定着するまで短かくても約21日間必要である事が示されています。
この引用は、モルツ博士の背景を知らないと理解しにくいと思うので、簡単に書いておく。
モルツ博士は形成外科の医者、つまりは整形手術をする医者。といっても、美容クリニックの医師ではなく、事故で顔に怪我をした人などに整形手術を施していた医者である。もう亡くなっているが、50年以上前に活躍していた。
彼は、医師として活動していくうちに、顔を手術した人の性格が術前と術後でガラッと変わってしまう人がいることに気付く。反対に、手術をしても変化のない人がいることにも気付いた。
その違いを研究していった結果、人は自分の思い込みによって自分をつくっているという結論に至った。だから、上記の引用文のような書き方をしている。
また、モルツ博士はイメージが定着するのに約21日間かかるということなので、習慣とはどこにも書いていない。まあ、思い込みがその人を作るというのであれば、21日で習慣が身につくと思い込めば、そうなるのだろうけれど、ここで私が言いたいのは21日以上経っても諦めずに続けようということ。いつもやっていれば、いずれ習慣化するのだから。
日記を書く
過去24時間に起こったポジティブなことを日記に書くことで脳が追体験をするため。
私が思うに文字としてアウトプットするためには、頭を使って考える必要があるので、記憶がより鮮明に思い出されるからだろうと思う。
運動をする
行動が大切であることを脳に教えるためとしている。
なお、TEDのプレゼンでは触れられていないが、運動することで、以下のように脳の認知能力が高まることが分かっているそうだ。ということは、ネガティブな面の認知も高まってしまうが、ポジティブな面の認知もまた高まる。ポジティブな面を見るように訓練してそうなれば、高まった認知力によってポジティブな面がどんどん目に付くようになるだろう。
「運動すると、脳由来神経栄養因子(BDNF)という物質が脳の中でさかんに分泌されます。このBDNFが、脳の神経細胞(ニューロン)や、脳に栄養を送る血管の形成を促すことが明らかになりました」
「ニューロンの数を増やすために最も効果が期待できるのは、運動です。さらにものを覚えたり認知能力を高めるために必要な神経結合を増やしたり、ドーパミンやセロトニン、ノルアドレナリンといった思考や感情にかかわる神経伝達物資の分泌を促す効果も、運動にはあります」また、継続的な運動によって、脳の認知能力が強化されることも明らかになってきた。
どんな運動をどのくらいすればいいかは触れられていないので、一つの目安をご紹介したい。これはあくまで、健康を意識した運動の目安なので、ショーン博士の言う効果がどれだけ現れるかは分からないが、常識的な見方をすれば、十分な運動量だと思えるという前提を知っていただいた上で参考にしていただければと思う。
7つの習慣の第7の習慣の章にはこんな記載がある。
よい運動のプログラムとは、家で実行できるものであり、身体を、「持久力」「柔軟性」「強さ」という三つの側面で鍛えるものである。
〜中略〜
持久力は、有酸素運動と心臓の能力向上からつくられる。
〜中略〜
心臓を強めるためには、早歩きの散歩、ランニング、自転車、水泳、ノルディック・スキー、ジョギングなどの運動が非常に効果的である。
脈拍数を一分間百回まで高め、その状態を三十分持続できれば、最低限のフィットネス状態を保っていると考えられる。理想を言えば、運動するときには、脈拍数を最低でも最高脈拍数(心臓の最大能力:一般には220から自分の年齢を差し引いた数値とされている)の60パーセント以上に高めるべきだ。例えば、四十歳なら、運動時に脈拍数を108に引き上げるように目標を設定する((220-40) x 0.6 = 108)。”トレーニング効果”が顕著に表われるのは、自分の最高脈拍数の72〜87パーセントの間であると言われている。引用:7つの習慣、キングベアー出版、スティーブン・R.コヴィー(著)、ジェームス スキナー(訳)、川西茂(訳)
※本では漢数字を使っている箇所があのるが、横書きだと漢数字は読みづらいので、一部アラビア数字に置き換えている。
柔軟性に関してはストレッチをするということしか触れられておらず、特に具体的な記載はないので、割愛した。強さに関しても、普通のデスクワークの人で筋力が生活の成功要因になっていないなら、多少の筋トレをすれば十分とされているので、割愛した。
瞑想をする
複数のタスクを同時にしようとして陥るADHD(注意欠陥・多動性障害)のような状態から、手元にある1つのタスクに集中できるようにしてくれるため。
TEDのプレゼンでは出てこなかったが、瞑想には様々な効果があるとされていて、以下のようにネガティブな感情が減少するということも関係するように思える。
瞑想中の脳をスキャンすると、各領域の活動が活性化していることが確認されています。具体的には痛みの耐性向上や、不安・うつの減少といった効果があるそうです。
意識して親切な行動をとる
親切な行動をしていてネガティブになることはないだろう。善意で何かをしようとうしているときは普通はポジティブな気持ちになっているはずだ。
TEDのプレゼンではサラッと流されたもう一つの成功要因
プレゼンでは解説はなかったが、ショーン氏の大学入学の話に重要なことが現れているように思う。
ショーン氏は、ハーバード大学に入っているが、願書を出した時点では、合格できるとは思っておらず、学費を払う余裕もなかったらしい。それでも、ダメ元で願書を出したら合格し、奨学金ももらえ、入学できた。
要は、可能性のないと思っていたところに思いがけない扉が開いたということ。やってみないと分からないというのだから、リスクも労力もたいしたかからないなら行動に移してみるのが吉だろう。このあたりの行動力も「成功」には重要な要素だと思える。
ポジティブ≠現実を無視
TEDのプレゼン動画では触れられていなかったが、ここで注意したいのはポジティブに捉えることと、現実を無視することは同じではないということ。
例えば、地図が間違っていて道に迷っているときに、いくらポジティブに考えたって道に迷っているということには変わりはないからだ。また、The Secretという映画、本がベストセラーになって引き寄せの法則がブームになったが、いいことを考えるだけで願いが叶うと、勝手に間違った解釈をしてしまうケースがあったようだ。行動する必要があると映画でも本でも解説されていたにもかかわらず。
重要なのは、地図が間違っているという現実を見ること。楽なことだけに意識を向けて終わりにするのではなく、大変だと思っても行動するという現実を無視せず、その上でネガティブにならずにポジティブに対策を考え動くことだろう。
まとめ
ということで、成功すれば幸福になる、と考えるのではないということ。
物事をどう捉えるかによってその人の現実が作り出される。そうならば、物事をポジティブに捉えるようにすれば、現実もポジティブに捉えられることになり、脳がポジティブな状態だと、つまりはポジティブに感じていれば、脳のパフォーマンスは上がり、行動の結果もよくなる。結果として、成功にどんどん近づいていくということになる。
だから、物事をポジティブに捉えることが成功につながっていくということだ。