“仕掛”でチラシの受取が2.5倍になった事例など11個の“仕掛”アイデア
“仕掛け”られたとしても全然悪い気がしない、それどころかむしろ気分が良かったり、面白いと思える。その上、“仕掛け”た側の目的も達成させている―。
そんな魔法のようなことができたとしたらどうだろうか? 例えば、前にすごいアフリカの石けん、人の行動を変えるアイデア、コピーの力の例という記事で紹介した石鹸のようなものだ。子供に石鹸を使ってもらうためにおもちゃを石鹸で固めて石鹸を使い終わるとオモチャが使えるようになるというようなもの。
秀逸なアイデアに関心がある者としては非常に興味をひかれる。実はそうした仕掛けを学問として研究している人がいて仕掛学という本が出版されている。大阪大学の先生が研究していて非常に面白い本。今回はその仕掛学の本のレビューとそれに関連した話題。
目次
仕掛はこの3つの要件があるもの
仕掛学の本では“仕掛”には3つの要件があると定義している。
公平性(Fairness):誰も不利益を被らない。
誘引性(Attractiveness):行動が誘われる。
目的の二重性(Duality of Purpose):仕掛ける側と仕掛られる側の目的が異なる。引用:松村真宏(2016)、“序章「ついしたくなる」には仕掛けがある”、仕掛学 人を動かすアイデアのつくり方、東洋経済新報社、P36-37
仕掛の例
この要件を満たすというのは具体例を見るのが一番分かりやすいだろう。なお、こうした仕掛を帰納的に分類すると大分類で2種類、中分類で4種類、小分類で16種類になるそうだ。詳しくは本を読むといい。
整理したくなるファイルボックス
背に線が描かれたファイルボックス。順番が狂うと線がずれて気持ち悪い
例えば、本の中でも紹介されているファイルボックスの例。上記は手元に同じものがないので勝手につくった画像でイメージしにくいとは思うが、こんな感じで背に線が入っている。順番に並べるとキレイに線が引かれるのだが、順番通りでないと線が乱れてしまう。線を揃えてスッキリさせると結果として順番通り整理されるようになる。
“世界一深い”ゴミ箱
ほかにも“世界一深い”ゴミ箱の例もアイデアとしては秀逸。ただ飽きられるので、本にも書かれているように地観光地など初めてその地に訪れる人ばかりのところでないと効果の維持は期待できなそう。
一見すると普通のゴミ箱だが、ゴミを捨てるとゴミがなかなか底にたどり着かない。8秒かかってようやく底に落ちるんだそうだ。面白くてついゴミを捨ててしまうようで、捨てられたゴミの量は通常の2.3倍になったそうだ(通常31kgが72kgになったそうなので、ゴミの重さ換算での話)。
鳥居を使ってゴミのポイ捨てペットの排泄を防ぐ
これはあくまでイメージ
ある場所でゴミのポイ捨てやペットの排泄で困るような場合には、神社の鳥居のミニチュアみたいなのを置くことで防ぐことができるというのが書かれており秀逸だと思った。日本人の多くが鳥居に向かってペットに用を足させようとは思えないだろう。日本でしか通じないとは思うが、キリスト教の地域なら十字架でも置くと良さそうだ。
日常の仕掛けの例
個人的に実際に見た仕掛、人から聞いたネット見たなど何らかの形で知った仕掛、本に書かれた仕掛をいくつか例として紹介したい。
電車の座席
これは多くの人が見たことがあるかと思う。昔、電車の座席は1人分だけ色の違う箇所があった。今は見かけなくなったが、代わりにくぼみがついていて誘導されるようになっているので、“仕掛”は健在のようだ。
横断歩道を渡らせるキャンペーン
こちらは日本ではなく海外の例だが、コスタリカでは歩道橋があってもそれを使わずに道路を横切る人が多く、月に平均で6人の命が歩道橋近辺で失われているそうだ。近くに歩道橋があるのになぜ使わないのか? 理由は時間の無駄だから。
そこに目をつけたコスタリカの携帯電話会社Kolbiは、それなら歩道橋を渡る時間が無駄にならないように、歩道橋を渡った時間をその分の通信費と引き換えられるようにしようというキャンペーンを行なった。通話はもちろん、どう計算するかは分からないがデータ通信量もその分だけ無料になる。
国もサポートしたこのキャンペーンによって歩道橋を渡った人のトータル時間は12000時間になったそうだ。その間、死亡事故はゼロ。4週間にわたって実施したとのことなので、全ての歩道橋で実施されたわけではない。ただ、特に危険な歩道橋でキャンペーンを行なったということなので死亡事故ゼロは効果ありといっていいのではないかと思う。携帯会社は直接的なメリットはないとは思うが、会社のイメージは良くなりそうだから間接的にはプラスになりそうだ。
捨てられないものを破棄させる方法
こちらはインドの話。ヒンドゥー教との多いインドでは、様々な商品のパッケージに神様の絵を掲載したものを売ることがよくあるそうだ。問題はそれを使い終わった後に起こる。
神様をゴミ箱に捨てるわけにはいかないということで、木の下に置いたり、川に流したりして処分されてしまうとのこと(信仰心のない者としては木の下に置くのも川に流すのも結局捨ててるんだから同じでは……?と思うのだが、信仰心のある人たちの感覚としては違うというということだろう)。
そこで、ある環境保護団体は、よく使われるお香のパッケージをひと工夫することにした。パッケージに植物の種が入っており、パッケージを植えることで植物が生えてくるようにしたのだ。
これは考え方としては面白いと思うし意味のある取り組みだとは思うのだが、仕掛という観点からすると良いものとは思えない。いちいち育てる手間がかかるし植物だらけになって場所を取るのも困ると思うからだ。
仕掛によって得られる利益に対して、コストが上回ってしまうと仕掛られなくなるという例とも言えそうなので、あえて取り上げてみた。あくまで取り組みとしてはとても素晴らしいとは思う。ただ、仕掛という観点からだけ見ればイマイチでは? という話。
仕掛をビジネスに応用すると……
仕掛がビジネスとしても応用ができるのは言うまでもない。もちろん、おかしな使い方をしても効力は発揮されるだろうから包丁と同じで使い方を誤ってはいけないのだが、公序良俗に反しない限りどんどん活用したらいいのでは? と思える。“仕掛”けられることで初めて認知して商品が役に立つケースもあるし、たとえ需要とはマッチしなくても不利益を被るわけではないのだから。
お客さんを巻き込んだ秀逸な広告
ジョセフ・シュガーマンという通販業界におけるセールスコピーランディングの達人がやったのは、スペルミスを見つけたらその分だけ割引するという広告。広告にスペルミスをしている単語を混ぜておいて読んだ人に間違い探しをしてもらおうというものだ。間違い探しをして多くの間違いを見つけると、その成果に合わせて割引クーポンがもらえる。具体的にどれくらい売ったかは忘れてしまったが、秀逸な例だ。
お客さんが喜んで宣伝してくれる“仕掛”
お客さんを巻き込む手段の一つにコンテストというのがある。
例えば、ダイエットだったり写真や絵だったり、楽器の演奏だったり、外国語習得だったりと様々だが、賞品やサービスを購入した人に対して商品を受け渡しする際に、結果を出した人の事例やランキングを載せた紙を1枚入れておくのだ。あるいはメールを1通送ってもいいだろう。
優秀者には特典がついてくると一言添えておきつつ、ダイエットなら痩せた人のBefore/After、写真なら講座受講前と受講後の出来栄えの違い、楽器演奏や外国語習得なら動画のリンクを付けておけばいい(薬機法などの法律は考えていないので、やっていいかどうかは別)。
すると、それに誘引されてあんな風になれたらいいな、この人たちみたいに一目置かれるようになりたい、コンテストで優勝したいと思う人は出てくるわけで、頑張るようになる。当然、結果が出たら報告してくれるはずだ。すると、それが顧客の声に変化する。
今だと、SNSを使っても良さそうだ。実際、少し前の話にはなるが、朝バナナダイエットのブームをつくったはまち。さんはSNSを活用した。具体的にはmixiのコミニュティを活用した。mixiでお客さん同士をつなげてダイエット報告をしてもらってうまく使ってモチベーションを保たせながら結果を出させていたそうだ。
結果、行動履歴と結果が記録に残り、実践者の声として宣伝につながった(本人から直接聞いた話だが、けっこう前の話で記憶があいまいなため間違えているかもしれない……)。ちなみに朝バナナダイエットの本は100万部以上売れたベストセラーだ。
チラシの受取が2.5倍増になった仕掛
これは本にかかれていた事例。
チラシスタンドの上部に鏡を設置しただけで鏡を設置しなかった場合に比べてチラシスタンドのほうに目を向けた回数は5.2倍、ビラを取った枚数は2.5倍になった。
引用:松村真宏(2016)、“序章「ついしたくなる」には仕掛けがある”、仕掛学 人を動かすアイデアのつくり方、東洋経済新報社、P118
というようにただ鏡を置くだけでチラシを取ってくれる人が2.5倍になり、目を向けた回数も5.2倍になるらやらない手はないだろう。鏡を設置するくらいで不利益になるとはとても思えないし、コストもそこまで大きくかかるとは思えない。
店やイベントなどの運営、オペレーションに使う
ビジネス仲間(同じ人からビジネスを教わった)の1人にメロンパン屋さんをフランチャイザー(本部)として経営している人がいるのだが、その人は行列をつくることができる。店のオープン初日には毎回必ずといっていいほど大行列となるのだ。行列がすごくて警察が来たことがあるらしく、今はあらかじめ伝えておくんだそうだ。行列の作り方は別の機会に触れるとして、ここで着目するのは行列をどうするかということ。
本の中では自転車の駐輪スペースに線を引いておくことで、それに沿って駐輪してもらうような仕掛があるのだが、それと同じにように秩序ある行列をどうつくるか? ということを仕掛けられれば、仕掛は皆にとってプラスになりとても有効な手段になる。
待ち時間のイライラを減らす
本にも書かれていたがエレベーターに鏡を置くと、待っている時間が快適になるとのこと。エレベーターのところに鏡のあるビルは確実に1つは思い当たるフシがあるので、知らないところで使われていたようだ。
あとは、前に大阪に行ったときに面白いなと思ったのが、信号の待ち時間がカウントダウンされること。確か大阪駅の近くの交差点で見かけた気がする。普通に設置されている信号で時間が表示されているのは大阪以外では見たことがない。道路工事で2車線が1車線になってしまっているときに設置されている一時的に設置されている簡易的な信号ならあるのだが、大阪の人の気質が分かる気がする笑 個人的には大阪は温かい人が多い印象だけれども。
こうした事例を知っていれば、お客さんの待ち時間をできるだけ快適にするためのの工夫ができるかもしれない。
仕掛を思いつくためのプロセスがビジネスに有効
本には最後に仕掛の発想の方法としていくつか方法が紹介されているが、その1つに行動の痕跡を観察するという方法がある。こちらの記事で書いたとおり、TEDの動画では人の動きをもとに道を作ることで、人の動きに合わせた道が作れるという話があった。
スモールビジネスの起業で失敗しないための“近道”をTED動画から学ぶ
仕掛の発想やビジネスを作る上でも通じるデザインの話
要するにこれは人のニーズに合わせてサービスを用意するという行為であり、ビジネスそのものだ。普段から仕掛を見つけるという楽しさを追求していると、結果として良いビジネスの発想につながると言ってもいいように思える。つまりは、考えようによっては自分で自分に仕掛けを施すようなものとも言える気がする。
まとめ
ということで仕掛学という本を中心に様々なアイデアを紹介してみた。まとめるとこんな感じだ。
- 子供に石けんの使用を促す仕掛(別記事)
- 整理したくなるファイルボックス
- 世界一深いゴミ箱
- 鳥居でやられたくない行動を制限する
- 電車の座席
- 横断歩道を渡させるキャンペーン
- 捨てられないものを環境にやさしく処分してもらう
- 広告のスペルミス発見で割引額が増える
- お客さんを巻き込むコンテスト
- チラシの受取が2.5倍になった仕掛
- 待ち時間のイライラを減らす仕掛
工夫次第でいろんなことが実現できるのは本当に面白いもの。個人的にはこういうのは好きなので、引き続きアンテナを張っておいてシェアできればと思う。
続編の「実践仕掛学」という本も出版されていた。
仕掛学の本。
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