借金して起業した人のその後の廃業率と満足度の推移

借金して起業した人のその後の廃業率と満足度の推移

起業はどうしてもお金がかかるものというのはひと昔前の話。

今やインターネットが普及してSNSやらスマホやらテクノロジーの発展によって個人でも気軽に金銭的なリスクを抑えて起業することはできる。

といっても、何をするかによってお金がかかるかからないは変わるの当然なので、今でも起業のために借金をするケースはたくさんある。例えば、ある接骨院の経営者(兼施術者)は、400万円を日本政策金融公庫から借りて開業した。自己資金の量もあるので額は様々だろうけれども、何百万円か借りて事業を始めるというケースはよくある話だろう。

で、そうしたお金を借りて起業した人たちがその後どうなっているのか? というデータが日本政策金融公庫から出ているようなので、それをもとに業績面や精神面など主に次の3つに関して触れてみたい。

  1. 廃業率
  2. 借り入れ金額の推移
  3. 開業時からのやりがいの推移

借金して起業した企業の5年生存率(廃業率)

個人が起業する際によく利用されるのが日本政策金融公庫。2008年より前は国金(国民生活金融公庫)という名前だったので、そのあたりに創業を考えていた人や創業した人は「国金」のほうが馴染みがあるかもしれない。

私の知り合いにも国金から借りて起業した人はいる(確か800万円)。今は疎遠になってしまったので、どうなっているかは分からないが、お金を借りて起業した人たちはその後、一体、どうなっているのだろうか?

よく開業から3年で7,8割が消えるとか言われるが、そのデータ元はよく分からない。こちらでも書いたとおり、国税庁のデータなんて話はあるが、いつの調査かも分からないし、対象も分からない。

200万社の調査で判明。生き残る会社、つぶれる会社の意外な違い
※200万社はイギリスのスタートアップの話。

そうしたら、つい先日、日本政策金融公庫がお金を借りた個人や法人のその後を調査していることが分かった。日本政策金融公庫からお金を借りて、2011年に開業した3046社を調査対象として2015年までの5年間でどう変化したか? というデータだ。

なので、お金を借りた人というタイトルではあったが、あくまで日本政策金融公庫から借りた人の話ではある。

日本政策金融公庫のデータによると、2011年12月から2015年12月の5年の間に廃業した企業の割合は10.2%だそうだ。企業といっても個人が7割を占めるので、小規模ビジネスが中心。

ただ、ここで廃業の基準は次の3つだそうなので、実際にはもっと多いとは思える。

  1. アンケートに廃業と回答
  2. 現地調査で廃業と認定
  3. 日本政策金融公庫の支店が確認

2.は主語が抜けていて誰が調査したたか分からないが、データの出どころは日本政策金融公庫の総合研究所なので、研究所が現地調査したものと思う。

廃業率が10.2%?ってホント?

本当にそんなに廃業率少ないの? と思って資料を読んでいたらアンケートへの回答数の推移が書かれていた。それによると、

アンケート回答の数
2011年12月末:3046社
2012年12月末:1787社
2013年12月末:1472社
2014年12月末:1380社
2015年12月末:1413社

となっていた(廃業した企業を抜いた数字)。

アンケートに回答する義務はないだろうから減っていく傾向にあるのは当然としても、2年目からやたら減っていてその後の減少がゆるくなっているのはなんなんだろうか? 1年で相当やられているのでは? と思ってしまうが……。

なので、廃業率10.2%という数字は実体を表しているとは思えない。

借り入れ金額の推移

そもそも開業するときに皆、どのくらいのお金を借りているのだろうか? 業種によって様々だとは思うが、平均して開業時に830.1万円の借金をしているとのこと。そのうち日本政策金融公庫は635.2万円と8割近くを占めている。他は地方自治体や民間金融機関の借り入れ。

で、その借金が5年たつと減るのではなく、1176.4万円に増加している。

開業から借金は増えているという結果
開業からの借金額の推移(クリックorタップすると拡大)
「新規開業パネル調査」〜アンケート結果の概要〜のP10より

借り入れが増えると印象はよくなさそうだが、業務拡大のための設備投資かもしれないので、一概に悪いとはいえない。初めからたくさんお金をかければ、より早く収益を得る可能性だってあるわけだし、タイミングを逸してせっかくのチャンスが流れた……なんこともある。

ただ、利益を出すまでに想定より時間がかかっているとか、運転資金が足りなくて大変になっている、なんてことももちろんあるだろう。アンケートに回答する余裕があるほどの企業の話なので、問題は小さいのかもしれないが。

借金の精神面への負の影響

ちょっと脱線するが、借金に関しての話を。私自身は借り入れしてやるような事業はやっていないので、どこからか借りたことはないが、借金している人、していた人の話を聞くと、精神衛生上はどうなんだろうか? とは思える。一概に借金=悪ではないのだれども。

実際、私と同じ時期に起業した人は70歳を超える方だが、それ以前に靴の会社を経営していて

「大変だよ。もう借金返すために働いているようなものだったね。」

なんてことを話していた。その人は、もうやってられないということで60歳手前で会社をたたんで、しばらくは働かずにいたが、その後に元手をほとんどかけずにゼロから起業してまた会社を作った。

借金の精神面への正の影響

一方、もう1人の経営者は30代で、ある会社の社長に交代していきなり数千万円の借金の連帯保証人になった。その会社を立て直すべく社長となったわけだが、いきなり借金を抱えた状態からというのは酷だろう。

その人は「借金を背負ったからこそ見えるものがある」と言って事業を立て直している。借金をして良かったとも思えるそうなので、すごいなと思える人だ。ちゃんと順調に業績も上げている。

なので、借金を背負うことをバネにして行動てきる人もいるということは分かる。あるいは、現金がたくさんあるうちならそれで打ち手が増えるわけなので、そうした意味でも精神面でプラスになることはあるだろう。

開業時からのやりがいの推移

では、やりがいについてはどうだろうか? 自らの意思で借金してまで始めた事業なのだから皆やりがいをもっていると思っても良さそうだが、実体はどうか? やりがいの推移はこうなっている。

起業後、やりがいがどう推移しているか
起業後のやりがいの推移(クリックorタップすると拡大画像が表示)
「新規開業パネル調査」〜アンケート結果の概要〜のP8より

こちらは開業したことに対する総合的な満足度。

起業後の総合満足度の推移
起業後の総合満足度の推移(クリックorタップすると拡大画像が表示)
「新規開業パネル調査」〜アンケート結果の概要〜のP9より

理想と現実の違いが出てくるのか、やりがいも満足度もいずれも開業からどんどん下がっている傾向にある。

といっても大部分が満足なわけで「おおいに満足」「やや満足」が多いわけで、独立してよかったという人は多そうだ。うまくいっている人たちは。当然ながら、退場した人は含まれないデータなので、あくまで生き残っていてアンケートに答える余裕がある事業者の話だ。

廃業した人も総合的に見たら全然違った数字になるんだろうなとは思える。

まとめ

日本政策金融公庫からお金を借りた人のその後が分かるのは貴重でありがたい。

ということで日本政策金融公庫から借りた人たちの5年の廃業率は意外と少ないこということが分かったが、どこまで実体を表しているかは不明確(それでも10.2%は意外と少ないが)。

起業後にやりがいを感じている人や満足だという人は多いようなので、あまり起業に対してネガティブに捉えなくていいようにも思える。

ただ、開業から時間がたつにつれてやりがいや満足度は下がっていること。そして、ここまでの話はあくまで起業した後につぶれずに生き残っている人たちの話であるということは忘れずに。

今回のデータ元はこちらの日本政策金融公庫による資料。年齢とか事業規模だとかも分かる面白い資料。
「新規開業パネル調査」〜アンケート結果の概要〜

起業後の存続に関しては、こちらもお勧め。

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