HARD THINGSと序文を書いた小澤隆生さんによる起業の話〜ビジネス書大賞2016授賞式より〜
人工知能の話と小澤隆生さん目当てでディスカバー・トゥエンティワン、オトバンク、アカデミーヒルズ六本木ライブラリー、NewsPicksが実行委員を務めるビジネス書大賞2016の授賞式(トークセッションつき)に参加してきた。
本を読んでいるだけでは分からないこと、例えば、著者の意図や想いなどが分かったのは大変興味深く面白かった。こうした話が聞けるのは、イベントならではかなと思えるととてもありがたい機会だった。
私がやっているのも関心があるのも、小澤さんのような起業家、投資家の人とは規模が全然違うスモールビジネスなんだけれども、あらかじめ答えが分からない、 あるいは答えがない困難に立ち向かうという点は共通している(大きさは違うとは思うが)。
そこで、個人が小さくやるようなスモールビジネスや零細企業がビジネスを立ち上げたりする上でも役立つなと思えることを簡単にまとめてみた。
目次
ビジネス書大賞2016の3冊
ちなみにビジネス書大賞というからには、受賞している本があるわけだが、今回は次の3つだった。
大賞:HARD THINGS、Ben Horowitz著、滑川海彦、高橋信夫訳、日経BP社
準大賞:学力の経済学、中室牧子著、ディスカバー21
審査員特別賞:人工知能は人間を超えるか?、松尾豊著、KADOWA/中経出版
スモールビジネスに関わる者としては、一応は起業家の端くれみたないもの。冒頭にも書いたとおり、とりわけ起業家でもあり投資家でもある小澤さんの話が最も興味深く(そもそも話が面白い人というのはあるが)、役立つこともあると思うので、まとめてみたい。
なお、人工知能の話に関しては、2015年の7月に行ったこちらの内容と被ってるなと思ったら、同じ方が登壇していた。なので、関心のある方はこちらの記事をどうぞ。申し込むときには全然気付かなかった……。
人工知能にすぐ取って代わられる仕事はこれ
人工知能の進歩もだいぶ進んでいるようで、もうじき言葉の理解までし始めるだろうとのことだった。すでに映像から言葉を生み出すこと、逆に言葉から映像を生み出すこと(既存の画像を探すのではなく、人間がイメージするように画像を作り出す)もある程度、できているようだ。
小澤さんの話とHARD THINGS
小澤さんは、2016年の7月現在、Yahoo!にてヤフーショッピングを担当しているが、こんな経歴の方。スタートアップ界隈の人なら誰でも知っている人かと思える。スタートアップとは無関係な私でも知っているくらいなので。
早稲田大学卒業後、CSK入社。インターネットの可能性に魅せられ、1999年にビズシークを創業。2年後に楽天に売却。ビズシークの吸収合併により楽天に入社し、役員としてオークションを担当する。その後、楽天イーグルス立ち上げ担当として楽天野球団取締役事業本部長に就任。プロ野球界に新風を吹き込む。2006年に楽天を退社し小澤総合研究所を設立(現任)、ベンチャーへの投資やコンサルティング業務を行う。2011年に設立したクロコスを2012年にYahoo! JAPANに売却、Yahoo! JAPAN グループの一員となると共に、YJキャピタルの設立に携わり、取締役COOに就任。2014年4月より代表取締役に就任。個人投資家としてnanapi、Appgrooves、カマド、スターフェスティバル、クラウドワークス、キラメックス、Crocos、ケンオクヤマデザイン、Netageほか多数の投資、創業を行っております。
引用:YJキャピタル株式会社より(2016年7月4日現在)
HARD THINGSに関してはそこそこの規模感以上のビジネスをやろうとしている起業家向けかなと思っていたので、低資本のスモールビジネスを中心に考えている私としては、あまり関心はなかった。しかし、小澤さんの話を聞いて読んでみたくなったので、会場で買ってしまった。
小澤さんの解説が秀逸であり、本の解説という側面だけでなくビジネスを志す者にとってプラスになるなと思えたので、まとめてみる。
HARD THINGSは何がいい?他の本との違いとは?
著者のベン・ホロウィッツの動画メッセージの様子を写真撮影したもの
起業なんてうまくいくこともうまくいかないこともあるもの。というかほとんどがうまくいかない。失敗を繰り返しながら、修正していって事業を育てていくのが普通。
そうした中で、どうしたらうまくいくのか?ということが書かれているのが普通の本。しかし、HARD THINGSは違う。著者のベン・ホロウィッツが自らの起業経験の中で体験したことをもとに、リアリティをもってうまくいかなかったときにどうしたらいいか?ということが書かれている。
小澤さんが料理に例えていたのはなるほどと思えた。誰だって料理をしたら、肉を煮すぎてしまったり、焼きすぎてしまったりするもの。いくらレシピがあったってそうした失敗は誰もやってしまう。では、肉を焼きすぎてしまったらどう対処すればいいのか?煮すぎたら?というよくある失敗が起こったときにどうしたらいいかが分かる本だということ。
また、同じことをやってもうまくいくこともあれば、そうならないこともあるもの。例えば、業務拡大する中で人を雇うことがある。そのときに、友だちや親戚などを雇うことはよくある話。それでうまくいったらいいけれども、もし、うまくいかなかったら……?
あるいは、スモールビジネスの範疇だとそこまで大きな問題にはならなそうだが、株を持たせてしまったら?給料を上げすぎてしまった場合にどうする?人を解雇する場合には?資金ショートの場合どうする?
などなど、マイナスの塊みたいな感があるのだが(笑)、そうした場合にどうしたらいいかが分かるというわけだ。
よくある勘違い
これは小澤さんの話には出てきた内容ではないが、今まで1500人近い人の起業、ビジネスに関わってきた中で思うのは、次の2つ。
1つは、プラス思考を誤って理解すると、こうした起こり得る可能性にフタをしてしまって何の準備もせずに進んでしまうこともあるということ。これは、見たくないものは見ないというだけの話で、プラス思考でもなんでもない。マイナス面を見ないようにするのと、見た上で前向きに考えるのとでは雲泥の差だ。
あとは、準備しすぎるのも問題ではあるが、準備とただ不安になることを混同してしまうこと。
分かっていることをやらずに進むのと、単に不安になっているだけとは大きく違う。前者は考えているわけで準備といえるが、後者はただ不安な気持ちを反芻しているだけで、考えているとは言わない。前者は頭を使っているが、後者はただ感じているだけ。
起業して事業を成功させるのに必要なこと
小澤さんの話もいくつか聞けたので、その中で大切だなと思ったことも簡単に。
起業してうまくいくには、たいていの人が「ここまでやったらいいいか」という水準を超えていけるか?どこまで突っ込んでいけるか?ということが大切という話だった。良い意味でバランスを崩して、どこまでやれるか?
普通のことをやったら普通の結果しか出ないわけで、競争している中で、頭一つ抜けるにはそれ以上のことをする必要があるので納得がいく。頭を使って全然違うアプローチで臨むことかもしれないし、同じことを競争相手が100やるなら120、150とやる必要があるよなと思えるので。
このあたりは、内容は全然違うが先日、会社員をやりながら月間1000万PVを超えるようなブログをつくった方の話に共通するところがある。
会社にバレずに副業ブログで月1,000万PV、会社辞めて独立起業した人のやったこと| IDEASITY
誰でもやれることを誰でもやれないレベルでどれだけできるか?ということかなと思うので。
小澤隆生さんが何を考えて事業をやっているか?
「小澤さんにとってHARDなことは?」という趣旨の質問だったか「HARDなことはありますか?」だったか忘れたが、こんな話をしていた。
大きなことをやりたいという想いがあってやっていて好きでやっているので、事業でツライということはないそうだ。ただ、成し遂げるのは難しいというだけ。どうやってやるかは分からないけれども、やる価値はあるし楽しいと思うようだ。
もし、うまくいかなったら残念と思うだけだし、やりたくないなら途中で辞めるだけというあっさりしている感もあった。
ちなみに、プロ野球球団を作ること自体には関心はなかったけれども、その大きなことを成し遂げるという意味では関心があったとのこと。見ているものが違うな〜と思わされた。
私みたいな凡人はついやっていることに目がいってしまうことがあるけれども、目的や目標を常に念頭に置いているのか安定感がある。目の前のことにいちいち右往左往されずにやりたいことをやっているな、と思えた。
感想とまとめ
HARD THINGSを読むということは、予め分かっているマイナス面の可能性に対して準備するということとも言える。
人類初の南極点到達に成功したノルウェーの探検家、ロアルド・アムンゼン(Roald Engelbregt Gravning Amundsen)はこう言ったそうだ。
あらゆる状況を想定して準備しておけば勝利が訪れる。これを人々は幸運と呼ぶ。事前に必要な予防策を講じるのを怠れば失敗は確実だ。これを人々は不幸と呼ぶ
ロアルド・アムンゼン(Roald Engelbregt Gravning Amundsen)
あらゆる可能性を把握して準備することが成功につながるということを物語っている。ちなみにロバート・スコットというイギリスの軍人であり探検家も同時期に南極点を目指して出発しているが、スコットの隊は全員が帰らぬ人となった。
このあたりの対比はビジョナリー・カンパニー4に詳しい。この本は困難が立ちはだかる中、卓越した結果を出した経営者の共通項を膨大な資料から導き出した良書。偉大な経営者とアムンゼンが似ているので、本の最初にアムンゼンとスコットの話が書かれている。
新規事業の立ち上げ、起業でも規模の大小はあれど、同じことが言えるかなと思える。
そんな困難にぶつかるなら起業なんてしなくていい……なんて思う人もいるかもしれないが、そもそも人生なんて何が起こるか分からないし、冒険みたいもの。HARDなことに立ち向かいたくないという人もいれば、難しければやる気が出るなんて人もいるけれど、避けることは不可能だろうと思える。大切なのは、どう対処するか?ということかなと思うので、誰にでも役立つ内容には思える。
不安に負けてやりたいことを我慢するのか、あるいは妥協して生きる人生を選ぶのか?と考えてみて自分がどう思うか?
ということで、最後が長くなったが、副題にある「答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか」ということが分かる本と言える。