ソフトバンク孫さんはどう時代を読んでいるのか?SoftBank World2016で明らかになったARM買収の答え

ソフトバンク孫さんはどう時代を読んでいるのか?SoftBank World2016で明らかになったARM買収の答え

SoftBank World2016に行ってきた。

スタートとなる最初の基調講演では孫正義さんがARMの買収の話を絡めながら、今後のソフトバンクの進む道を話をした。

前回のSoftBank World 2015では、次の3つの分野を攻めるという話だった。

  1. 人工知能
  2. IoT
  3. スマートロボット

今年もそれらに注力することは変わらないが、IoTをより強調していた。人工知能もクラウドの関係はあるので、人工知能とクラウドを捨てたわけではないけれども、中心はIoTということで進めていくようだ。

時代の流れはどうなるのか?ソフトバンクが何を考え突き進んでいるのか?そして、それらに関連してなぜARMの買収なのか?ということを話していただいので、自分のメモも兼ねてまとめてみた。

※理解不足で間違いがあるかもしれないので、あくまで個人のメモとして見ていただければ幸いです。

これからの時代の流れ

孫さんが見ている時代の大きな流れの1つは、去年の話とそこまで変わっておらず、

  1. 人工知能
  2. IoT
  3. スマートロボット

の3つが関係してくるという見解。

これらはそれぞれが独立しているというわけではなくて、それぞれが関係し合っていてARMの買収に絡めて孫さんから話があった。この話を聞いてどういう文脈でARMを買収したのか?が分かっり、孫さんの見えている景色は違うなぁと思わされた。

人工知能、IoT、スマートロボットの関係性

まずは人工知能、IoT、スマートロボットの3点がどうつながってくるかの話から。

人工知能のキーワードはディープラーニング。ディープラーニングのキーワードはビッグデータ。そして、ビッグデータに関連してくるのがIoTになるのだが、それは次のような理由からだ。

人工知能の発展はディープラーニングにあり

前から順番に見ていくと、まずはディープラーニング。ここ数年で人工知能が急速に発展したのは、ディープラーニング、つまりはコンピュータが自己学習できるようになったことがとても大きい。

ディープラーニングに関してはこちらに人工知能研究のトップを走るといっていい東京大学大学院の松尾豊准教授の話が参考になると思うので、より詳しくはこちらをどうぞ。タイトルは仕事の話になっているが、前半にディープラーニングについて書いている。
人工知能にすぐ取って代わられる仕事はこれ

だから人工知能のキーワードはディープラーニングということになる。人工知能は急速に発展していてAlphaGoが囲碁のプロ棋士に勝ったのは記憶に新しいだろう。

また、SoftBank World2015のときも話があったが(25年前からだ言っているそうだ)、一つのチップに載るトランジスタの数は2018年に300億個となり、人間の脳細胞の数と同じになる。その後も二次関数のようにどんどん増えていくことが予想されている。

人間の脳で起こっていることもコンピュータが計算処理の際にチップで起こっていることも電気信号のオン・オフであるという点については同じ。

また、動物の脳細胞の数と人間の脳細胞の数には大きな差があり、それが知的生産活動の差になる、つまりは知的生産活動は脳細胞の数に比例すると考えられるというのは直感的にも納得がいくだろう。

これらの前提で考えると、2018年にはコンピュータがハードウェアとしても人間の脳を超えるということになる。そして、その後もずっとどんどん発展していき、2040年には1つのチップに3000兆個ものトランジスタが搭載されると孫さんは予想している。

IQという側面から見ても、比べものにならないほど人工知能は人間を凌駕することになる。アインシュタインやレオナルド・ダ・ビンチといった天才と呼ばれる人のIQが200前後なのに対して、人工知能のIQは10,000にもなるそうだ。囲碁も将棋はもちろん、それ以外のあらゆる分野で勝てるわけがない相手にあるのは目に見えているだろう。

つまり、ディープラーニングで自己学習する上での基盤となるハードウェアは今でさえすごいのにさらに発展していくということだ。どんどんハードは発展していくので、膨大なデータを扱える土台となる処理能力は十分だと考えられる。

学習効果を高めるには多くのデータが必要だからビッグデータがカギとなる

では、ビッグデータがディープラーニングと何の関係があるかというと、学習にはデータが必要だからだ。

人間が様々な体験や知識をもとに学習していくように人工知能も自己学習にはデータが必要になる。人間の脳よりも優れたハードを持ったコンピュータが膨大なデータを元にディープラーニングが進めば、急速に知性が高まっていくことは明らかだ。

なので、ビッグデータがディープラーニングのカギとなるわけだ。

IoTとの関係と人類史上最大のパラダイムシフト

では、そうした膨大なデータをどう集めるか?人工知能が自主的にネットで検索したり、センサーで目の前の出来事を観察したりするだけでもいろいろとデータは集まってくるとは思う。

だが、もし地球上にICチップが散らばってそれぞれがつながっていたとしたらどうだろうか?別な言い方をすれば、IoTが進んだ世界なにったらどうか?ということだ。

リアルタイムでものすごいデータが集まってくるはずだ。なので、ビッグデータとIoTには関連性があるということになる。

人間を超えた知性が地球上のあらゆるデータ(宇宙もあり得る)を吸い上げて、自己学習していったらどうなるか?人類を超えている何かがやることなので、想像を超えることが起きそうだということは感覚的に思える。人類史上最大のパラダイムシフトが起こるだろうと孫さんは見ている。

スマートロボット

これは孫さん口から直接出てきた内容ではないので、勝手な推測ではあるが、IoTが進むことで、膨大ななデータが集まることになり、その膨大なデータを処理できるようなチップも開発されていき、その結果として人工知能のディープラーニングはどんどん進み、様々なスマートロボットが登場することになるのだろう。

Pepperの発展はもちろん、車がしゃべる(後述するとおり、HONDAがソフトバンクと共同研究している)、家電がしゃべるといったことが起きていくものと思える。

SFの世界の話がフィクションでなくなる可能性が現実味を帯びてきているのは大変興味深い。

ソフトバンクの成長戦略

softbank-world2016-masayoshi-son

さて、そうした時代の流れを押さえた上で、ソフトバンクという会社がどう成長してきたのか、これからどう成長していこうとしているのか?ということを知ると、ARMの買収の意味、孫さんが何を考えているかがどんどん分かってくる。

今までのソフトバンクの成長を見ても分かるとおり、パラダイムシフトで事業領域を変えて成長している。今は携帯の会社という認識が大多数かもしれないが、その前はYahoo!を中心としたネットの会社、その前はソフトの会社というように主力を時代の流れに合わせて変化させてきているわけで、確かにそのとおりだなと思える。

孫さんの創業から数年しか経っていないときに講演した内容を聞いたことがあるが、その中で孫さんは創業時に時代の流れに乗ることを重視したということを話していいる。

それでソフトの時代が来ると読んで「ソフトバンク」を創業した。その後、時代は流れて、PC・インターネットの時代とうことでYahoo!に投資して事業展開をする。その後、PCからモバイルにシフトしていくということを見越してvodafoneを巨額買収した。iPhoneにもいち早く着目した。こうしてソフトバンクは時代の流れに合わせて、前の領域つながりのない(あるいは薄い)非連続の挑戦をしているというわけだ。

ということもあり、ソフトバンクは何の会社かひとことで言うならば、「デジタル情報革命屋」ということを孫さんは話していた。

ソフトバンクが照準を合わせているパラダイムシフトはIoT

そして、今回のパラダイムシフトは先ほども書いたとおり、人工知能とIoT。IoTで森羅万象がつながり、そのデータをもとに知的生産活動をする人工知能がいる世界。そんな時代は今までの常識が通じない新しいパラダイムの世界になるのは想像に難くないように思える。

そして、孫さんはIoTに焦点を当てて舵を切っていこうと決めて、ARMの買収も行なったということ。

では、なぜARM何だろうか?

なぜARMの巨額買収を決めたか?4つの理由と孫さんの思惑

ARM
※この写真は適当に選んだ回路の写真

2016年7月19日の月曜日。ソフトバンクがイギリスのARMというCPUのコアを研究・開発、設計している会社を3.3兆円という莫大な金額で買収した。しかも、わずか2週間というとんでもないスピードで。その後のSoftBankの株価は、ARMのシナジー効果が見えないせいか下がったようだが、孫さんはもちろん確固たる意思のもとに買収をした。

なぜ、孫さんがARMを買収したのか?についてはARMという会社がどんなところなるかが分かれば、見えてくるだろう。その意図は、IoTの中心になるからというのがあるのだが、それは以下のような4つの理由による。

  1. ARMはこれからの時代のキープレイヤーとなる
  2. IoTのキーポイントである低消費電力に優位性がある
  3. IoTのOSがあって応用しやすい
  4. もう1つのIoTのポイントであるセキュリティにも強い

ARMはこれからの時代のキープレイヤーとなる

ARMという会社はこの買収劇があるまで知らなかったのだが、話を聞くとスゴイ会社だということが分かった(良いと思って買収するわけだからマイナス面を話すことはないとは思うが)。

そもそもARMという会社はCPUのコアを研究開発、設計しており、そのライセンス提供をしているる会社だそうだ。孫さんのプレゼンのスライドを見た限り(講演内容の写真撮影はNGなのでスライドの写真は撮っていない)、ARMのチップは、なんとスマホの97%、タブレットの85%、車の95%、ウェアラブルデバイスの90%に使われているそうだ。

PCではインテルかもしれないが、その他の危機にはARMありきといってもいいほどのシェアだ。そして、もはやPCの時代ではなく、モバイルの時代だし、それが今後はIoTになっていく。

コアな部分をARMが押さえていて、各社がシステム・オン・チップ(SoC, System-on-a-Chip)といって、1つのコアとなるチップに必要な機能をどんどん追加していくようなやり方をしているそうだ。

AppleがiPhoneに使っているA9というCPUのコアはARMであり、Androidのスマホのほとんどに使われるクアラルコムのSnapdragonというCPUもコアにはARMが入っている。グラフィック関連のNVIDIAにもARMがあり、サムスンのCPUもコアにはARM、という具合に今やあらゆるところで使われているのがARM。

ARMベースのチップの出荷数は2015年の1年間だけで148億個だそうで、二次関数のグラフのようにほぼ右肩上がりで伸びている。インテルよりも遙かに多い量になる。

孫さんの見立てでは、ARMは今後20年で1兆個のチップを地球にばらまいて機能させると読んでいる。

IoT時代におけるキーは“消費電力”であり、ARMの技術が活かされる

孫さんの考えでは、IoTの時代におけるキーは計算処理速度よりも消費電力。確かに身の回りにチップが搭載されたとしても、その動力となる電力は必要不可欠だし、簡単に充電できるものばかりではないだろうから、消費電力はキーになりそうだ。

ちなみに、ARMは試作品の頃から消費電力の少ないCPUだそうで、今でも消費電力が少ない優秀なCPUだそうだ。

それに関して、こんなエピソードを話してくれた。

ARM社が最初にCPUの試作品を作ってそれを動かそうとしたときに、本来、電源供給のための回路に接続するはずだったのが、誤って接続し忘れてしまったそうだ。通常なら動くはずがないのだが、なんとCPUが動いたという。よく調べてみると、CPU周辺から漏れていたわずかな電力を動力として計算処理を行なっていたんだそうだ。

そんなことがあるものなのか……と思って聞いていたが、これは要するに、ARMのCPUは試作品の時点からわずかな電力でも動く消費電力が少なくてすむ筋金入りの低消費電力CPUと言えそうだということ。

IoTのOS(mbedOS)があって応用しやすい

ARMは、mbedOSというOSを用意している。それに合う部品(コンポーネント)もたくさんあって、何かと応用が利く。上位互換でどんどん開発されているので、機能や性能の劣るチップ(例えば、前のバージョンのチップ)で搭載されている機能がそのまま使える。これはプログラムを書く側としては、ありがたい話だ。すでに作ったプログラムを書き換えずに、上位のチップを扱うことができるのだから。

ちなみにチップの大きさは、ゴルフボールのディンプル(くぼみ)よりも小さなもので、とても小型。なので、場所を取らず物理的にも応用は利きやすいものと思える。

ARMはIoT時代のセキュリティにも強い(Trust zone)

個人的にIoTに関して心配だなと思っているのがセキュリティ。便利になるのはいいのだけれど、例えば車などはクラッキングされたが最後、大惨事になりかねない。飛行機も墜落しかねないし、ウェアラブル端末にも危険があるだろう。

IoTの時代であらゆるものがつながったのなら、単体ではなく複合的にいろんな被害が出そうで甚大な被害が出かねない。

そうしたクラッキング、のっとりなどができないようにARMでは、Trust zoneという仕組みを使っているそうだ。

コアが2つに分かれていて重要な処理をする回路は、一般のインターネット網にはつながらないようにハードが物理的に別になって保護されているらしい。

だからといって確実に安全かはよく分からないが、従来のCPUとは違うものであり、従来のものよりはセキュリティに優れているのは事実だろうと思える。

わずか2週間で決断できた理由

ということで、時代の流れとしてIoTが最も大きなパラダイムシフトになると考え、ソフトバンクはそのパラダイムシフトに合わせて舵を切ることに決め、そのためにIoTの時代にキープレイヤーとして相応しいと考えられるARMを買収したというわけだ。

買収発表の2週間前にトルコでARMの会長と会って、そのときに初めて買収の話をしたそうだが、もともと10年前からARMのCEOといった主要人物とは面識があって話もいろいろとしてはいたそうだ。

でも、買収の話をしたのは本当に発表の2週間前だそうた。が、通常なら何ヶ月もかけて準備してようやく発表というような大きな買収をするにもかかわらず、決断をしたとのこと。

もう1つの理由

そして、もう1つの理由が孫さんが40年前にたまたま見つけた一枚の写真にある。カリフォルニア大学バークレー校の学生だった孫さんがたまたま見つけた写真。それは半導体チップの写真だった。指先に乗るコンピュータ。その写真を見たときに、感動して手足がしびれ、涙が出たそうだ。

そのとき19才の孫さんがイメージしていたことが、今後起こるであろうパラダイムシフト後の世界。そして、それがARMの買収によってどんどん現実化されていくような思いがあるようだ。

19才の頃に出合った写真を見たときにわき起こった感動がついに実現される!という思いも買収の後押しになっているように思える。

人工知能のカギの1つは感情、感情AI

ソフトバンクのPepper(ペッパー)

ということで、今後の時代の流れとARMという会社の重要性がつかめたと思うが、孫さんが人工知能に関して重要視していることがある。それが感情だ。

ソフトバンクの理念としてあるのは「情報革命で人々を幸せに」ということ。

生産性だけを追い求めていったとするならば、人間味のない殺伐とした世界が待っているだけに思えるし、人間が利用されてしまったり、排除されたりしてしまうかもしれない。映画、マトリックスの世界のようにコンピュータに人間が利用されているだけというのはなんとも悲しい。

が、人間の感情を人工知能に組み込むことで、温かい愛のある人工知能が生まれ、人の役に立つ世界になるはずだ。

ちなみに感情なんて持てるのか?と思うかもしれないが、前回のSoftBank World2015の記事でも書いたとおり、感情のキーとなるのは次の3つのホルモンであり、それをエミュレート(模倣)することで感情を持たせることができると孫さんは考えている。

ちなみにPepperは初対面の人と会うと緊張するそうだ。何度も会っていると安心感が芽生えるらしい。

それが感情と言えるかどうかは分からないが、人間がやっていることを解析していって感情に関して分かったことをコンピュータがやったとしたら、感情以外の何ものでもないようには思える。結局、やっていることは同じなわけだから。

基調講演の後半、ホンダの“しゃべる車”

ちなみに孫さんの後はホンダの人工知能を搭載した車に関する講演、IBMワトソンの話といった形で進み、基調講演が終わった。

ホンダの人工知能車はまさに映画やテレビの世界が実現するような感があった。昔、ナイトライダーというアメリカのTVドラマにしゃべる車が出てきたが、あれと似たようなのが現実になるんだなと思えた。

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※この写真はナイトライダーに登場する車であり、ホンダの車とは別
画像:Wikipedia

イメージ動画として流れたのは、若い女性と車が会話しているシーンが時間とともに流れ、粋なことをしてくれる感情のある車が描かれていた内容だったので、ナイトライダーとはイメージが違ったが、車としゃべる世界が夢ではなくなりそうだというのは興味深い限りだ。

先ほども触れたように、Pepperは初対面だと緊張し、何度も会っている人には安心感を抱くそうなので、それと同じことが車にも当てはまっても何もおかしくはない。

まとめと感想

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ということで今回のSoftBank Worldも去年に引き続きとても興味深い内容だった。ちみなに10時開始のところ、開場時間の朝8時半に行ってみたが、写真のとおり長蛇の列。多くの人が関心高く見ていることがうかがえる。

今回の印象的だったのは、講演の最初の頃に

「1年を経て出した答えがARMの買収」

ということを孫さんは話したこと。

これは、前回のSoftBank Worldの中で、シンギュラリティに対してどう対処するか?ということを話しており、その宿題の答えがARMの買収だという意味で言った言葉。

これを聞いて、「俺は何か考えていたか?」と思うと、まったく何も考えていなかったなと思い知らされた。

小さな世界にいてスモールビジネスなんてやっていると、こうした世界の話は大きな話で自分事として捉えられず、「単に興味深い話を聞いた、面白い!」で終わってしまっていたわけだ。

人工知能なんて個人がそうそう使えるものではないなんて思うかもしれないが、IBMのワトソンはAPIを公開していて使うことができる。といっても制限は大きいだろうし、デモだけで使いものにならないのかもしれない。ただ、そんなのはこれまでの他の技術も同じだったはず。

パソコンなんてまさか個人が使えるとは誰も思わなかっただろうし、携帯電話も一緒。なので、人工知能に関してもおそらくは個人でも使えるようになるでは?と思える。パラダイムシフトが起こってそういう概念がなくなるのかもしれないけれども。

自分の思惑とは別に時代はどんどん先に進んでいく。その変化についていってダイナミックに時代を生きるか、時代の流れは考えずに過ごすか、別にどちらでもいいとは思うが、個人的には前者のほうが面白いような気がする。だからといって何ができるかは分からないけれども、自分なりに考えて行動するのは面白そうだ。

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