「世界最先端のマーケティング」の要約・まとめと最新のマーケティング動向
「世界最先端のマーケティング」という本を読み、朝渋の著者イベントとして開催されたセミナーにも参加してきた。
本のタイトルどおり、世界最先端のマーケティングが分かるといっても過言ではないように思える内容だった。事例が豊富で構成も分かりやすくて読みやすい。マーケティングに関心があるなら読んでおくといいのでは? と思う。
備忘録と理解促進、頭の整理のために、本の要約と書評、加えて著者イベント(セミナー)の内容についてまとめる。
ただ、私のような小規模事業者はメインの対象者ではないかなとは思えるので、まずは対象者に関して触れてから中身の話に入ろうと思う。
※なお、著者イベント(セミナー)はソーシャルフリーということなので、会場で自分で撮った写真は公開OKと考えてそのままバンバン載せている
目次
世界最先端のマーケティングを読むべき対象者と注意すべき人
「世界最先端マーケティング」という本は、オフラインを基点とし、リアル店舗を展開する企業において、経営やマーケティングに携わる実務家に向けた本だ。読んだ感想としてもそうだし、本文にも最初の段階で実際にそう書かれている。
著者は良品計画にてマーティングに携わってきて今はオイシックスにてマーティングに関わっている奥谷孝司さんと博報堂傘下の広告代理店大広の岩井琢磨さんの2人。なお、参加したセミナーに関しては奥谷さんと岩井さんのお二人ではなく、オイシックスの奥谷孝司さんと同じくオイシックスの西井敏恭さんの2人が登壇された。
「最先端技術のマーケティング」の著者イベント(セミナー)の様子
つまり、無印良品やオイシックス、大広といった数百億円から数千億円の売上規模のある会社の方が書いた本なので、対象者はそうした企業と似たようなところになると考えるのが自然だろう。
だからといってEコーマス専門でオンラインだけの店舗経営をしている人には役に立たないとか、規模の小さな個人や家族経営の店舗経営者には役に立たないということはないと思う。
ただ、実際に本の内容を活かそうと思ったら規模の違いや想定している読者を意識する必要はあるだろう。本質的に何が大切か? その方法で合っているのか? といったことを考える必要がある。
ということで、以下、内容に関して。
小売業界で今、起こっている変化(チャネルシフト)
今、チャネルシフトという新しい競争が起こっており、どうそれに対応していくか? その戦略、チャネルシフト戦略について書いている本。チャネルというのは、要はお客さんに商品を届ける経路のこと。つまり、チャネルシフトというのはお客さんに商品を届ける経路をどうシフトしていくか? ということになると考えてよさそうだ。
具体的に何が起こっているかは、セミナーで提示されたこちらの図にあるようにAmazonの例が分かりやすい。
Amazonのチャネルシフト例
以前は、Amazonというのはオンラインしかなかったわけだが、今はどんどんオフラインにも進出してきている。これは、単にオンラインで儲かったからオフラインに進出えなんて理由でやっているわけでない。Amazonがオフラインに進出しているのは、事業をより成長させるための考えがあってやっていること。
この本で語られるのは、こうしたAmazonがやっているようなやり方の話。本からチャネルシフト戦略の説明を引用するとこうなる。
「チャネルシフト戦略」とは、
オンラインを基点としてオフラインに進出し、 顧客とのつながりを創り出すことによって、 マーケティング要素自体を変革しようとする 戦い方である。
※引用:奥谷孝司、岩井琢磨「世界最先端のマーケティング」(日経BP、2018年)のイントロダクションより。手元にKindle版しかなく、Kindle版だとページ数が変動するためページ数は省略
チャネルシフトによって、お客さんは他にはない購買体験ができるようになり、顧客とのつながりが強まっていく。
では、チャネルシフト戦略を進めるためにどうしたらいいのか?
本では、そのための思考のツールとして独自に作成した次の3つを提供している。
- チャネルシフト・マトリクス
- 顧客時間
- エンゲージメント4P
これら3つは言ってみれば考え方の枠組み、つまりはフレームワークであり、考える軸、視点を提供してくれているとも言えるだろう。
以下、それら3つに関連してまとめていく。
Amazonをはじめとしたマーケティングチャネルシフトが起こっている
前述したとおり、チャネルというのはお客さんに商品を届ける経路のこと。これまで、チャネルというは以下の4つの変遷があるということで本には解説がある。
-
シングルチャネル
→1つのオフライン店のみ -
マルチチャネル
→オフラインとオンラインに店はあるが、それぞれを利用する顧客は別。 -
クロスチャネル
→オフラインとオンラインに店があり、それぞれを利用する顧客が一緒の場合もあるが、同一顧客かどうかの判別ができない。 -
オムニチャネル
→クロスチャネルで顧客の判別もできるようになった状態。あるお客さんが、オンラインで買ってもオフラインで買っても追跡できる。
これを見れば、チャネルシフトというのはオムニチャネルがキーだというのは言うまでもないだろう。なので、単にオンライン企業がオフラインで店を出しましたとか、オフラインの企業がオンラインにも店を出しました、ではあまり意味がない。
本では意図したチャネル設計が大切だと説く。オンラインとオフラインに店舗を持っているだけでは意図的に顧客の行動を設計できない。事例の企業のようにつなげることで、顧客が自社のオンライン、オフラインを行き来して買い物をするようになる。
それによって、例えば、家電量販店で実物を見て触って買うのはAmazonで別の店、というような流れを止めることも期待できる。
そうしたチャネルシフトの事例としていくつかの企業が紹介されている。
業界別チャネルシフトの事例(アパレル)
アパレルはオフラインがまだまだ強いものの、オンラインを活用した事例もどんどん出てきている。事例として紹介されているのは「LE TOTE」、「BONOBOS」といったアメリカの企業だけでなく、日本の「ZOZOTOWN」も。
LE TOTE(ル・トート)
LE TOTEは、月額課金(49ドル〜)で服をレンタルするビジネス。レンタル期限は無制限。レンタルした服は最大50%オフで買うことも可能。
レンタルという形をとっているが、つまりは自宅で商品選択をさせているという話。サービスを長く使えば使うほど顧客の嗜好が分かり、より良い提案ができるようになる(個人個人のデータが肝)。
BONOBOS(ボノボス)
アパレルのBONOBOS(ボノボス)のWebと店舗の様子(スライドより)
BONOBOS(ボノボス)はネットで服を事前に選んで店で買うモデル。店は試着してフィッティングするだけのような形で、奥谷さんの話によると実際に店舗に行くとガラガラだそうだ。買ったら商品は後ほど配送されるので、持ち帰ることはない。
店員は販売成績によるインセンティブがあるようなので、担当した人はしっかりと接客してくれる。
ZOZOTOWN
ZOZOSUITによって個人のデータをより詳しく計測する。サイズの合う合わないも極力解消できる→サイズ不一致の返品や不満が減る。
なお、本には書かれていないサービスとして、ZOZOTOWNは「おまかせ定期便」というサービスをスタートさせた(書かれていないのは執筆のタイミングによる理由だとは思うが)。
おまかせ定期便は、Webで好みを選択することでそれに合った服が自宅に送られてくる仕組み。その中から欲しいのがあれば買ってなければ返品できる。LE TOTEと似たような仕組みだが、月額課金ではない点は違っている。
必要ない服は7日以内なら送り返せるが、返品送料の200円はかかる。ただし、1つも買わない場合は返品送料はかからないので無料のようだ。なお、毎回毎回返品していると、解約させられるということはおまかせ定期便の規約には書かれている。当然だろうけど。
ちなみに「おまかせ定期便」は、こちらでも書いたように似たようなのが子供服ですでにある。
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業界別チャネルシフトの事例(インテリア業界)
インテリア業界もアパレルと同様にオフラインがまだまだま強い。そんな中でも、いくつかの企業はオンラインをうまく活用してチャネルシフトしている。事例としてあったのは「ニトリ」と「IKEA」
ニトリ
「手ぶらdeショッピング」スマホアプリを見ながら店内をまわって、良いのがあればそのままネット経由で買える。店舗で買って持ち帰ることも可能。
IKEA
「IKEA Place」。ニトリとは反対に家でアプリを立ち上げて自分の部屋にどう家具を置くかイメージできる(ARを使う)。そのままネットで買うことも可能だし、店舗に行って実物を見てから買うことも可能。
業界別チャネルシフトの事例(食品業界)
こちらはAmazonの例。Amazonが生鮮食品に参入したのは顧客のライフスタイルを把握することで、さらなる成長をするため。Whole Foodsを買収したのはInstacartを取り込んでいたためだと考えられる。Instacartはオンラインで生鮮食品を選んで店舗で受け取れる仕組み(配送も可能)。
また、物流を考えたときにも店舗があると有利に働くと考えられる。
業界別チャネルシフトの事例(タクシー業界)
そして、もう1つタクシー業界についても書かれいてた。言わずもがなUBERが登場する。ほぼオフライン中心だったところに、スマホアプリと事前のカード登録によるオンライン決済を持ってきたのがUBER。
UBERは体験すると分かるが、乗るまでに時間がかかることはあるけれども、支払いのプロセスはオフラインでは省略されるので、すごく楽だし、今までにない斬新な感覚がある。
「顧客時間」を知ってチャネルシフトしていく
チャネルシフトで鍵になるのがオムニチャネル。オムニチャネルというのは前述したとおり、お客さんがオンラインで買ってもオフラインで買っても追跡できるということを指す。
オンラインのみなら物理的な店舗がないので、自然とどのお客さんが何をいつ買ったかというようなデータは取っているのが普通だが、従来の店舗を持った企業だと店舗が中心となっていたり、あるいはどの商品が売れ筋かといった商品単位でのデータ把握となっていたようだ。
しかし、Amazonがやっているようなチャネルシフトというのは、あるお客さんがオンラインで買ってもオフラインで買っても追跡できる仕組み(オムニチャネル)。なので、オンラインであってもオフラインであっても、お客さん一人ひとりに合った個別化された販売が可能。
そうなれば、お客さんはより便利になりより良い買い物体験ができるようになる(もちろん、知られすぎて気持ち悪いという人もいるとは思うが)。
では、オムニチャネルを設計するためにはどうしたらいいのか? そのために有効なのが「顧客時間のフレームワーク」という思考ツールだ。
オムニチャネルを設計する上で有効な「顧客時間のフレームワーク」
顧客時間のフレームワークは、
- 時間(顧客時間)
- 空間
- 連携
という3要素で成り立っており、それぞれの視点をもとに思考を進め、チャネル設計するといいという話だ。
お客さんによる「選択→購入→使用」という買い物の3つのプロセスのことを顧客時間と定義する。購入の瞬間だけでなく、その前後の要素も念頭において考えるべきだという話。
空間というのは、ここではオンラインかオフラインかということ。
連携は「選択→購入→使用」という時間をオンライン、オフラインでどう組み合わせるか?
購買体験によって差別化し囲い込んでいく
顧客時間のフレームワークをもとにどうやってオムニチャネルを設計していくか? ということについて以下の4つの事例をもとに「顧客時間のフレームワーク」を使った解説がある。
- THE MELT
- DIFFERENCE
- WARBY PARKER
- MUJI passport
THE MELTの秀逸な事例
THE MELT(メルト)は、アメリカ、サンフランシスコのグリルチーズ専門店。オンラインで注文して店舗でサンドイッチやハンバーガーを受け取る仕組みを提供している。
これだけだとただの事前注文にすぎず何がいいか分からないと思っていたのだが、注目されるにはやはり理由があった。THE MELTが秀逸なの、ライバルよりも先にお客さんに購入を決めてもらうことにある。そして、それを先陣切ってやったことだ。
ランチを考えると分かりやすい。事前にどの店で食べるか決めていても、街を歩いていたら心変わりすることもあるし、店舗が混んでいたら他に行ってしまうかもしれない。
しかし、もし事前に注文ができたとしたら? 店にとってみたら他のライバルを差し置いて注文が取れるわけでライバルに心移りされることもなくなる。
ただ、商品特性として熱々が美味しくてそれを望んでいるというのはうまくいった原因の1つだろう。熱々のできたてが店舗で待たずに食べられるというのは、事前注文する理由の1つに十分なりえる。
アプリをつくって事前に注文できるようにするだけなら簡単に真似はされるとは思うが、従来の仕組みを変えてでも参入してくる大手はあまりないことだろう。
DIFFERENCEの購買体験の事例
紳士服のコナカが展開するオーダーメイドスーツを扱うDIFFERENCE。
事前にお客さんにアプリを使って好みを選んでから来店してもらうと、それらの要望にあった形で接客を受けられ、オーダースーツが買える。一度、買ったら採寸のデータは保管されるので、次からはもっと楽に買える。店舗に足を運ばなくても、オンラインだけでもシャツやスーツを買うことも可能。
WARBY PARKERの購買体験の事例
WARBY PARKER2010年に創業したスタートアップのメガネの会社。HOME TRY-ONという仕組みが秀逸。これはオンラインで好みを選ぶと5つのサンプルが無料で届いて、それを一定期間、自由に使ってから買えるという仕組み。
そして、SNSに試着写真をアップして意見をもらうことも推奨している点も注目。これよにって宣伝効果はもちろん、選択の後押しまでしている。
たとえオンラインであっても、こうした形で先に試してもらって買うというのが、他の分野でも進んでいくことが考えられる。
良品計画のMUJI passportの事例
MUJI passportというのは、物理的なポイントカードをアプリにしたもの。店側としてより正確に顧客データを得るのが目的。顧客時間(選択→購入→使用)をより詳細に把握するため。
その結果、データがよりたくさん集まるようになり、以下のメリット、効果が得られた。
- 顧客増がより細分化できた
- アプリでプッシュ通知という販促手段ができる
- チェックイン機能や在庫検索機能よって購入段階以外の行動で売上に貢献する要素が明らかに
- 客観的な判断ができるように(例:顧客の行動を知ることでオーバーストアの把握ができる)
エンゲージメント4P
どのポイントで他者の真似できない戦い方をするか? を考えるのに役立つエンゲージメントの4P
独自のチャネルによって顧客とのつながりを築き、それを武器にマーケティング要素そのものを変えていく取り組み。KPIが店舗から個客へ。
Amazon Goは自動化で人手不足解消に役立つ目的というよりも、個客認証にある。誰が入店してどんな行動をして何を買うのか? という行動データがとれる点が注目される。
エンゲージメント4Pというのは、以下の4つのPを変革して他社が真似できない戦い方をつくるのがチャネルシフトの戦い方。
- Place(チャネル)
- Promotion(販促手法)
- Price(価格)
- Product(製品)
Place(チャネル)
チャネルを顧客とのつながりをつる場に変える。このPlaceが最重要ポイント。
Amazonは「個客」のベストセラーが分かる。Kindleは読書という領域にまでデータ収集に踏み込めたツールと考えられる。Kindleがあることによって顧客時間のフレームワークで出てきた、選択、購入、使用の3つを押さえられる。
選択は言わずもがな、個人の買い物履歴に合った形でお勧めが提案されるし、購入データは当然持っている。「使用」に関しては、kindleが出るまでは本という物理媒体ではどこまで読んだとかどれくらい時間をかけたとか、どこに線を引いたとかメモを書いたとか、そうした情報は手に入らなかった。
しかし、Kindleがあれば読書のデータが取れる。動画も提供しているので動画視聴のデータも取れる。こうした顧客時間(選択→購入→使用)のデータ取得を本では「対話」という形で表現している。
「対話」が増えれば、たくさんの個客のデータが取れる。たくさんデータが取れれば取れるほど、その人に合った商品提供もできるし、商品開発も容易になる。今後、Amazonがオリジナルの本をつくったり映像を作ることも可能になっていくと考えられる。
Promotion(販促手法)
チャネルから顧客時間のデータがどんどん入手できれば、それを活かした販促ができるのは当然だろう。その事例として、オイシックスと無印のやった遅得という施策についての解説があった。
なぜ、オイシックスではカートにあらかじめ野菜がはいっているのか?
通常、ネットショップで何かを買おうと思ったらサイトを見て何を買うか能動的に選んで買い物かごに入れる。ところが、オイシックスでは特定の野菜をたくさん買う人には特定の野菜がカートに自動で入るなど、お客さんに合わせてカートにあらかじめ野菜が入る仕組みにしている。
不要なものをそこから排除したり、別なのを追加する。ゼロからいちいち追加するようなことはないそうだ。データを取れているからこそできることであり、使う側としては気の利く店になる。
無印の遅得
無印良品が行なった遅得という施策は配送を遅らせることでマイルがつくというもの。
この施策を打った背景には顧客時間のデータ取得がある。無印良品では「無印良品週間」という商品が10%オフで買えるキャンペーンを行なっており、そのときの顧客時間のデータを見ていると、10%オフのセール期間になるとキャンセルができる商品はキャンセルされて再度注文して買うお客さんが一定数いることがわかった。
つまり、顧客との「対話」から早く欲しいと望んでいるとは限らないのでは? という仮説が生まれたわけだ。10%オフの期間は当然ながら売れ行きも好調になり、配送がかなり大変になるという問題があった。そこで、その仮説をもとに、「届くのが遅くてもいいなら10%オフにします」というオファーをした。それが遅得。
また、配送の都合で無理に遅くしてもらうのではなく、マイル進呈で遅く発送することを選んでもらうようにしたせいもあってか「炎上」するようなこともなく、配送の集中もだいぶ緩和されたそうだ。
Price(価格)
Amazon Bookの店舗内の写真(スライドより)
Price(価格)価格に関しては、Amazon Bookの事例が興味深い。
Amazon BookはAmazonが展開しているリアルの書店。Amazon Bookに行くと本が並んでいるのは普通の書店と同じだが、面白いことに値札がついていないそうだ。そして、価格はプライム会員とそうでない場合とで明確に差がつく(見づらいが、価格の違いは上記写真のとおり)。
顧客は体験を通してプライム会員になることのお得感を感じることになる。
いきなり!ステーキのチャネルシフト
価格というポイントからは少しずれるように思うが、日本の「いきなり!ステーキ」も興味深いやり方をしている。
いきなり! ステーキでは肉を食べた量に応じてマイレージがたまるようになっていて、獲得数によってランクが分かれるようになっている。ランクアップすると無料ドリンクがもらえるなどの恩恵がある。また、消費量のランキングも分かるようにもなっている。それをスマホアプリで管理しているのだ。
なお、マイレージが肉の値段ではなく量を基準としているのは店舗に来てもらうことを重視しているから。
Product(製品)
顧客のデータを使って提供する商品自体を変えていくことによって変革をもたらす。
個人個人の趣味嗜好はもちろん、アパレルならサイズ感、インテリアなら部屋の間取りなどさまざまなデータが得られれば、それだけその人に合わせた商品提供ができるようになる。そうなれば、他では得られない買い物体験が得られる。
Amazonのようなプラットフォームがそれをやると、いろんな商品の提案ができるのはもちろんだが、自社開発の商品も作れるようになっていく。
ここでは、事例としてAmazonやZOZOのPB(プライベートブランド)、加えて死んでいた商品がう復活することもあるという無印の事例も書かれている。
個人に合わせた商品提案、さらにはPBも
店舗では売れた商品は分かるので売れ筋かそうでないかの判別は可能(顧客時間の「購入」)。だが、Amazonは前述のとおり顧客時間の「購入」に加えて「選択」はもちろん、「使用」までも把握している。
Kindleの使用に限らず商品レビューも見ているはずなので、そこからある程度の満足不満足は分かる。日本だとZOZOTOWNがWEARというSNSで自分のコーディネートをシェアする仕組みを用意しており、それで「使用」のデータを取ることができる。
売れなかった商品が売れるようになることも
無印では商品を売れ具合によって「S」「A」「B」「C」と4つにランク付けしているそうだ。Sが最も売れる商品でC売れない。通常は、Cの商品はそのまま消えていくのだが、ある商品はCランクだったにもかかわらず、売れ続けているとのこと。
それが、「シリコーントレー/ビー玉」というビー玉のような氷がつくれる製氷トレー。といっても、量がたくさん出るわけではないのでSランクになったわけではないが、一定数はずっと売れるということでオンラインショップにて販売し続けている。
なぜ、通常なら消えていくはずの商品が復活したのか? それは顧客の声を聞くための仕組みとSNS(ブログ)が決め手だった。もう少し具体的にいうと、顧客の声として再販の要望があり、加えて、買った人が氷をつくるためではなく、アクセサリーをつくるために使っているというなぜ買ったのか? という理由がブログで分かったという2つの要素があった。
いくら顧客の声として再販してほしいと要望のあった商品であってもCランクはCランク。店では売れなかったということが分かっているので、店頭に置くのは却下された。しかし、ネットなら店舗の売り場は関係ないので、ネットで再販することに。その結果、見事に完売。500個が2日で売れたそうだ。もう1度販売すると、今度は500個が1日で売り切れ。
それを受けてネットでの継続的な販売が決まって本が書かれた時点では、まだ売られているとのこと。
ここで重要なのは、なぜ、買ったのか? という理由が分かったこと。それが分かれば、そのニーズを持った人に提案して売ることもできる。
まとめ
ということでまとめると、以下にその人に合わせたパーソナライズな販売をしてより良い買い物体験をしてもらうか? ということになるだろう。
そのために、オンラインを基点として顧客データを引き継ぎながらオフラインでもつながりをつくる。そこでより多くのデータを取り、お客さんにはより良い買い物体験をしてもらう。
そうすれば、ファンも獲得できるようになってより利益も出せるようになる。また、店舗で実物を見て、他の会社からネットで買うといった「ショールーミング」と呼ばれることも起きにくくなるし、ファンだけど売上には貢献しないという利益を考えると残念な状況にも陥らずにすむ。
非常に面白く、事例も豊富で構成もよくまとまっている本なので、最先端のマーケティングに関心がある、ある程度の規模感で店舗経営している。小売業のマーケティングに携わっているなんて人には、今後どうビジネスを進めていくかを考えるのにかなり役立つと思える。お勧めの本。
「世界最先端のマーケティング」を読んでの感想、所感
想定している読者の対象者が店舗の企業にいる人であり、奥谷さんは良品計画にいた人だけあって、ほぼオンラインで完結している私のような立場だと理解し難いこともある。例えば、店舗単位でデータをとっているとか。オンラインならお客さん1人1人が何を買ったか? ということを把握しているのが当たり前なので(そうでなければ、商品やサービスを提供できない)。
また、オムニチャネルに関しては名前だけはなんとなく聞いたことがあるけど、なんなの? という疑問が解消された感はある。
チャネルシフトにおいてキーとなるのがオムニチャネル。小売関係で「オムニ」という言葉を聞くとセブンイレブンのイメージが自分の中にはある。ただ、実際にオムニ7を使ったことはあるけれども、正直なところ、まだまだな感はあった。店のスタッフは「え? オムニ7来たの?」みたいな感じで不慣れもいいところだった。
なお、オムニ7を使った理由は、単に欲しい商品(なまものの食べ物)を調べていたらセブンイレブンのネット通販でしか買えなかったので、やむなくネットで注文しただけ。なまものということと自宅配送だと受け取りのために時間調整が必要になることがあって面倒なので、店舗で買いたかったのだが、ないのだからしかたない。受け取りが近くの店舗に指定できた点は便利だったので、店舗があちこちにあるセブンイレブンの強みだなとは思えた。
今のところ、オムニ7は多少は便利かなくらいのものでまだまだな感はあるが、オムニチャネルに目をつけてすでに実践し始めているのはさすがだなとは思えた。今後、変わってくることは十分にあり得る。
身近で感じた事例(Cottea)
表参道にCotteaというコーヒーとお茶の店がある(青学前の細い通りにあるので、表参道のイメージはあまりないが……)。メインはコーヒー。
Cotteaが面白いのは試飲専門の店だというところ。たまに前を通ることがあって「随分狭いカフェができたな……」と思っていたら、なんと試飲専門店だった。今のところ、ネットで好みを選んで店で飲む、というわけではないような感はあるが、ネットで好みを選んで豆を買うことはできる。
なので、チャネルシフトとは言い難いかもしれないが、個人個人に合った商品提供という意味では今までにない購入体験ができるわけで、チャネルシフトでやろうとしていることは実現できそうな感がある。
DIFFERENCEが伸びたのはパーソナライズだけが理由?
紳士服のコナカが手がけるDIFFERENCE。スマホアプリでデータや好みを事前入力して店舗でオーダースーツを買うという店。
紳士服のコナカには申し訳ないのだけれど、個人的には生まれ育った田舎にドドーンとあって安売りもしていたこともあり、正直、洗練されたお気に入りのスーツを買う店という印象はない。手軽に安くスーツが買えるというイメージ。
なので、どれくらいの人がオーダースーツを買うときの選択肢になるのか? という疑問は正直なところあった。いくらスマホアプリでオーダースーツ買えますよ! と言われても肝心のスーツ自体に価値を感じなかったら何の意味もないので。
でも、どんどん店を増やして好調のようだ。六本木の交差点にもある。よく展開できたなと思っていたのだが、本に書かれていてうまいなと思ったのは佐藤可士和さんを起用したこと。それよにって紳士服のコナカとは完全に別ということが印象づけられるような気がした。なので、その印象づけもあってこその成果だよね、という感はある。
単に紳士服のコナカが売り出したら頓挫してそうな気がしてならない。
Amazonは個人のベストセラーが分かる→AIでコンテンツつくれる?
AmazonにはAIもある。オリジナルの小説や映画などを今後作っていくとしたら、AIが小説をつくる、映画をつくるなんてこともあるのか? なんて思えた。
そこまではまだ夢物語かもしれないが、こちらの記事で書いたとおり、人工知能が8割を書いた小説はすでにあるし、映画のトレーラー映像も人工知能が作ったというのがある。
人工知能でどう仕事が変わる?人工知能の小説や映画予告編の実物はこれ
小規模事業者はどうするか?
事例は、店舗展開を多数やっているある程度規模のある会社だったり、スタートアップ。なので、それよりも小さなスモールビジネス、マイクロビジネスを手がける人は、そのまま真似しようと思っても難しいのが普通のはず。
ポイントは、いかにしてお客さん1人1人に合わせたビジネスができるか? ということになると思う。「アプリをつくってうまくいっているならウチも!」なんてことで、始めてしまうと開発費とメンテだけにコストがかかって全然ダウロードされないなんてことが起こる。そもそも自分たちが対象としているお客さんはスマホをそんなに使うのか? というのもある。
小さな店だと顧客データをまともに持っていないところもあるので、まずはそうした当たり前のところからやっていきたいところ。顧客台帳の大切さは何百年も前から言われていることであり、それをいかにうまく活用するか? ということが肝だろう。
アプリでなくもポイントカードでも十分。まだまだポイントカードで成果出しているこんな店もある。
4ヶ月で110回来店!顧客を虜にしたパン屋さんのすごいポイントカード
やはり、大切なのはテクノロジーやスマホなどではなく、お客さんとのつながりだよなと思わされる。